岸田首相、旧統一教会対策に「前のめり」…矢継ぎ早の方針転換で弊害も

政権批判かわす狙い

岸田首相が「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)を巡る対応について、矢継ぎ早に方針を転換している。「対策が不十分」との批判をかわす狙いだが、急な方針転換による弊害も浮き彫りになっている。

「ぎりぎりの解釈を絶えず行っていかなければならない」
首相は19日の参院予算委員会で、宗教法人法に基づく解散命令の要件に関し、法解釈を変更した理由を説明した。
「民法の不法行為は入りうる」との法解釈は、前日の国会答弁とは百八十度異なるものだ。転換の背景に、方針を急きょ打ち出すことによる国会答弁の準備不足を指摘する声が上がる。
首相は衆院予算委の初日となった17日に旧統一教会に対する調査の実施を表明した。「信教の自由を侵しかねない」などと政府内では消極論が強かったが、国会で旧統一教会問題で批判にさらされることを懸念し、首相が決断した。この表明を受け、政府内では「解散命令請求を前提にした動きだ」との見方が広がった。
にもかかわらず、18日の衆院予算委で、立憲民主党の長妻政調会長から「民法の不法行為を含めないと3年、4年、5年かかる。本気度が問われる」と追及を受け、首相は防戦に追われた。省庁幹部は「そもそもなぜ解散命令請求の可能性を狭める答弁をしたのか」と首をかしげた。
首相周辺には「解散命令請求が出来なければ政権が倒れる」との危機感も寄せられた。18日夜、首相官邸の首相秘書官室で、中山光輝首相秘書官や文化庁の合田哲雄次長、消費者庁、法務省の担当者らが対応を協議し、首相が方針転換を決めた。政府高官は直後に立民の安住淳国会対策委員長に電話で方針を伝えた。

高額寄付など被害者救済の法整備でも、首相は前のめりになっている。
政府は来年1月召集の通常国会で関連法案を成立させることを目指して準備を進めていたが、首相は18日の衆院予算委で、「今国会を念頭に(提出の)準備を進める」と唐突に発言した。首相の指示で、自民党は立憲民主党や日本維新の会と被害者の救済法案を検討することも決めた。関係省庁に対する根回しは行われておらず、短期間で実効性のある法案を作り上げられるかどうかは不透明だ。
政府・与党内では「場当たり的な対応を続けていると、墓穴を掘りかねない」(閣僚経験者)と危惧する声も上がっている。

従来の解散 「刑事罰」判断

宗教法人法は、宗教法人に対する解散命令について「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」や「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」が認定された場合、裁判所が命じることができると規定している。
オウム真理教の解散命令に関する1995年の東京高裁決定は、解散命令の対象になる行為について「社会通念に照らして当該宗教法人の行為であるといえるうえ、刑法等の実定法規の定める禁止規範または命令規範に違反するもの」との判断を示した。
これを受け、宗教団体を所管する文化庁は、「旧統一教会の幹部らが刑事罰を受けておらず、軽々に請求できない」(幹部)との立場を取ってきた。解散命令請求の適否を判断する調査に踏み切ることもなかった。
元日本宗教学会会長の島薗進東大名誉教授(宗教学)は、「解散命令の対象には民事法も入るのが自然で、最初の答弁に無理があった。首相が誤りを認めて早く修正したことは評価できる」と話す。ただ、わずか1日で政府対応の根幹に関わる答弁を変更し、不安定感も印象づけることになった。野党からは「朝令暮改にもほどがある」との声が出た。