1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の全記録が神戸家裁で廃棄されていた問題で、家裁がこの事件を含め、過去の少年事件で記録を永久的に保存する「特別保存」にした例が一件もなかったことが判明した。当時は明確な基準がなく、運用が現場任せになって制度が機能していなかった可能性がある。専門家からは適正な保管に向けた法制化を求める声が出ている。
この問題で、神戸家裁は事件記録が2008~19年に廃棄されたとみているが、詳しい時期や記録の内容、廃棄を決めた経緯などは全て不明のままだ。廃棄について「適切ではなかった」とする一方、経緯に関する調査を否定し、遺族からも批判の声が出ている。
最高裁の内規では、少年事件の記録について「少年が26歳に達するまで保存する」と定めている。ただ、1992年の最高裁通達や裁判所の内規では、社会の耳目を集めた事件や史料的価値の高い事件は「特別保存」の対象とし、永久的に保存するよう定めている。
神戸家裁によると、少年事件の記録を特別保存とするかどうかは家裁所長が判断するが、過去に特別保存とした例はなかった。家庭内の紛争などを扱う家事事件では、3件が特別保存されているという。
裁判記録の廃棄を巡っては19年、東京地裁が「朝日訴訟」など歴史的価値のある民事裁判の記録を廃棄していたことが判明。20年以降、主要日刊紙2紙以上に判決記事が載った場合などに特別保存にする要領を定め、基準を明確にした。
神戸家裁も20年にこの要領を定めたが、連続児童殺傷事件の記録を廃棄した当時はこうした基準がなかった。さらに、この事件では事件記録だけでなく、加害男性の氏名や家裁への送致、保護処分を決めた日などを記した「事件簿」も廃棄されていた。事件記録を廃棄した場合、事件簿にその日付が記入されるが、男性の事件簿は保存期間の20年が経過した後の19年2月25日に廃棄され、事件記録の廃棄時期を特定することが不可能になった。
神戸家裁は経緯を調査しない理由について「当時の担当者に聴取しても個人の見解にすぎない」と説明。21日、取材に対し「特定の(職員)個人の問題というより、特別保存に関する運用が適切に行われる仕組みが整備されていないという庁(神戸家裁)全体の問題であると考えている」と説明した。遺族らへの謝罪や説明についても「行う予定はない」としている。
こうした裁判所の姿勢について、裁判記録の管理に詳しい龍谷大の福島至名誉教授は「何が不適切だったか、しっかり検証すべきだ」と批判する。背景には、公文書が国民共有の知的資源だという意識の欠如があるといい、「今は原則廃棄で例外的に保存という考え方だが、本来は逆のはずだ。事件記録を原則公文書館で保存するなど、規定を法律化すべきだ。記録の保存について、外部の人を入れて判断する委員会のようなものを設ける必要もある」と訴えている。【巽賢司、山田毅】