日本最西端 与那国島を揺るがす中国・台湾情勢

【AFP=時事】馬の群れが海岸で草をはみ、シュモクザメとの遭遇を求めてダイバーが紺碧(ぺき)の海へ潜っていく。日本最西端の島・与那国島は一見どこまでも平穏だ。しかし、中国による大規模な軍事演習が住民の生活を揺り動かしている。

与那国島は台湾から110キロ。8月の演習で発射された中国のミサイルは、島の海岸線からそう遠くない位置に落下した。

「言葉には出さなくても、感じた恐怖、それはもう大きな打撃となって残っています。みんなピリピリしていますよ」。与那国町漁業協同組合の組合長、嵩西茂則(Shigenori Takenishi)さんはそう語る。

8月に米国のナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)下院議長が中国政府の警告を無視する形で台湾を訪問し、反発した中国が直後に軍事演習を実施。嵩西さんは組合の漁船に操業の一時自粛を指示した。

中国の強硬的な態度が国境の島に大きな影響を及ぼすミサイル発射により、それが改めて浮き彫りになった形だ。その危機感は、自衛隊駐屯をめぐる島の議論をも揺り動かしている。

かつて、島を守るのは駐在所2か所の警官が持つ拳銃2丁だけだと言われていた。

自衛隊駐屯をめぐる議論は当初住民を分断し、反対の声も上がっていた。しかし2016年以降、与那国島には海上・航空監視の自衛隊が駐屯し、自衛隊員170人とその家族は今や島の人口1700人の15%を占めている。2024年3月までには「電子戦部隊」も配備される予定だ。

「今回の中国の軍事行動を見ていると、なんとかギリギリ間に合ったかな」と、与那国町長の糸数健一(Kenichi Itokazu)氏はAFPの取材に応えた。

「この小さな島々も守る意思がありますよ、だから下手な、よこしまな考えを起こさないでくださいね、そういうメッセージを送ることができたかなと思うんです」

■「本当に助けてくれるのか」

だが、そうした見方が島内で必ずしも広く受け入れられているとは言い難い。

与那国島を含む沖縄県は、その過酷な経験から軍隊というものに対する反発が強い。第2次世界大戦(World War II)末期の沖縄戦では県民の4分の1が犠牲になり、1972年までは米国の占領下に置かれていた。今日でも、在日米軍基地の大半は沖縄県に残されたままだ。

与那国島は、距離的には東京よりも台湾や韓国のソウル、さらには中国の北京に近い。日本政府は南西諸島防衛の脆弱(ぜいじゃく)性を意識して、本土から与那国島まで1200キロに及ぶ同諸島に自衛隊を配備し、防衛力を強化している。

与那国島に自衛隊を配備するに当たり、政府は、安全保障上の利点に加え、広さ30平方キロの島に経済的利益がもたらされると強調した。

与那国島の一部の議員は、島の経済的な将来は台湾や本土よりも近いアジア各国の商業ハブにあると考え「国境交流特区」構想を掲げたこともあった。しかし日本政府はそれを否定し、2007年から駐屯地建設への道筋を付けた。

自衛隊駐屯に対する住民の支持は2010年に起きた中国との外交危機をきっかけに高まりを見せ、2015年の住民投票では与那国町民の約6割が支持するに至った。その後は中国の威嚇行為や相次ぐ海上事案にも押され、島民の支持は固まった。

「今はほとんど反対する人もいないですね」と自衛隊駐屯を支持してきた与那原繁さん(60)は話す。

しかし、中国が台湾を強制的に支配下に置こうとした場合、自衛隊の存在によって島が標的になってしまうのではないかなど、与那国島が置かれる状況について懸念する声は依然ある。

漁師の上原正且さん(62)もその一人だ。

「いざ有事の時に島民を助けてくれるか、ということが第一の問題なのではないでしょうか。(中略)今回の中国と台湾の件を見ても、有事の時に本当に自衛隊がやってくれるか、これは本当に違和感を覚えますね」

■「戦争したくなければ、戦争に備えよ」

自衛隊の存在が与那国島に変化ともたらしていることについては、賛成派、反対派ともに認めるところだ。

それは、巨大なレーダー施設が建設され星空と競うように点滅しているというだけではない。昨年稼働を開始した待望のごみ焼却施設は、予算のほぼ全額を防衛省が負担している。また、駐屯地の賃貸料が入ることで島の学校の給食費は無償化された。

与那国島には高校がなく、雇用も限られている。台湾との活発な交易が戦後に絶たれて以降、何十年も衰退の一途をたどってきた。

現在、与那国町の歳入の5分の1を占めるのは、自衛隊関係者が納める税金だ。しかし、誰もがこの変化を肯定的に捉えているわけではない。町議会議員の田里千代基(Chiyoki Tasato)氏は長い間、自衛隊の誘致に反対してきた。

田里氏は、自衛隊員やその家族が町議会選挙に投票することで、地元の政策に影響を与えていることに疑問を呈する。そして自衛隊が島の経済に与える影響によって、町民が自由に発言しにくくなっていると主張する。

「反対、反対という人はいなくなってきていますね、実際は。(声を)上げにくくなってきていますよね。明日の飯をどうするかっていうことに追われていますから、みんな」

だが糸数町長から見れば、基地がもたらす経済効果に異論はない。また治安情勢を考えると、自衛隊の駐屯が必要なのは明らかだと話す。

「平和が欲しければ、戦争したくなければ、戦争に備えなさい、ということです」

【翻訳編集】AFPBB News