「救急のプロ」が見たコロナ 「隔離ありき」からの脱却を

新型コロナウイルス感染症で懸念される「第8波」に、どう向き合えばいいのか。災害現場では災害派遣医療チーム(DMAT)の一員として被災地の医療支援に当たる一方、コロナ下ではクラスター(感染者集団)対策などの陣頭指揮をとってきた、北川喜己医師(64)=愛知県医療体制緊急確保統括官=は「単なる風邪ではない」としつつ、従来のような「隔離ありき」ではない感染対策を国に求める。「救急のプロ」が指摘する新型コロナの教訓とは?【山縣章子】
クルーズ船の集団感染に直面
名古屋掖済(えきさい)会病院(名古屋市中川区)の副院長、北川さんは、同病院救命救急センター(ER)のトップも務める。センターは「救急患者は断らない」を合言葉に、東海地方では初めての救命救急センターとして1978年に設立され、東日本大震災や熊本地震などでも被災地支援に当たった。
「救急のプロ」の北川さんが最初に新型コロナに直面したのは、2020年春に集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の対応だった。DMATメンバーとして、国から派遣を要請された。
船内の感染者は当時約700人。患者のケアに当たったが「感染症は自分にとっては専門外。これでいいのか」という戸惑いもあった。しかし、次々と陽性者が発生する中、治療の優先度に応じて患者を振り分ける「トリアージ」の対応は自然災害などの際と変わらない。「災害時の対応を当てはめられるのではないか」と感じたという。
連日に及ぶクラスター対応
昨年1月には、愛知県知事の特命で新型コロナの「統括官」に抜てきされた。北川さんらDMATメンバーが中心になって緊急確保チームを作り、患者の入院調整のほか、クラスターが起きた高齢者施設などに出かけ、患者の治療や感染予防に当たってきた。
チームは当初、医師ら12人で構成していたが、感染のピーク時には約20人まで拡大。老人ホームや高齢者や障害者などが住むグループホームなども含め、チームの派遣はこの約2年で計200回を超えた。感染拡大の波を経験する中で、「新型コロナの治療を手がける医療機関が増えたり、地域の嘱託医や往診医が治療に関わったりするようになるなど、新型コロナの医療提供は広がった」と話す。
各地で過去最大の感染者数を更新した第7波では、チームの派遣要請はほぼ連日に。高齢者施設などでのクラスター発生が次第に「日常」になるにつれ、施設内に閉じこもりがちな高齢者の日常生活動作(ADL)をどう維持するかが課題になってきた。
病床逼迫(ひっぱく)で、症状が安定している人は入院せずに施設内で療養することが増える中、「感染者を個室にとどめず、感染ゾーンの中で日ごろと同じように運動する」といった、ADLと感染対策の両立を目指すアドバイスを増やしたという。
変化し続ける波 「単なる風邪ではない」
「第8波」についてはどう見ているのか。「感染の波は、今後も寄せては返す可能性があるだろう」と話す。その一方で、高齢者の死者も、新型コロナが重症化して肺炎で亡くなるといったようなケースより、最近は感染をきっかけに合併症を起こしたり、もともとある基礎疾患が悪化したりして死亡するケースが増えており、「波」の特徴は変化していくとみている。
北川さんは「これまでの国の対応は『(患者の)隔離ありき』だったが、ワクチンや治療薬により感染の波は異なってきている。これまで同様の一律的な対策を繰り返すべきではない」と話す。
10月25日には、特定機能病院や地域医療支援病院に対し、パンデミック(世界的大流行)時には病床確保などの医療提供を義務づける感染症法改正案が審議入りしたが、その効果に対しては懐疑的だ。「病床確保などについては、民間病院も含めて協力できることは全て協力している。これ以上、何をどうすればいいのか、というのが現場の感覚ではないか」と話す。
北川さんは「新型コロナは『単なる風邪』ではない」と念を押す。一方で「当初は感染力もよく分からずただただ恐れていたが、今はだいぶ様子がわかってきてもいる。新型コロナを特別扱いせず、必要な感染対策を取った上で、普通の病気として扱う新しい関わり方を考える準備を国は始めてほしい」と訴える。