魚類の一部は生まれた後に性別を変えることがある。性転換はどんなメカニズムで起こるのか――。熊本大と旭川医科大の共同研究グループは、生後間もないメダカがメスからオスに変わる過程で、活性酸素が細胞を傷つける「酸化ストレス」が影響していることを発見した。魚の養殖現場では成長の早いメスを多く生産することが求められており、研究グループは、今回の発見が「オス化」を止める技術の開発にもつながると期待する。
一般的に人間など哺乳類は、親から受け継いだ遺伝子の性染色体の組み合わせで性別が決まる。一方で魚類の一部は、生後の環境によって性別が変わることがある。
熊本大大学院先端科学研究部の北野健(たけし)教授(52)らのグループによるこれまでの研究では、メダカの場合、卵からふ化した後の5日間が性の分かれ目で、この時期に32~34度の高水温下で飼育すると、メスがオス化しやすかった。高水温下では、メダカの体内でストレスから身を守ろうとするホルモンの一つ「コルチゾール」が分泌され、生殖腺に作用してオス化するとみられるが、その詳しいメカニズムは不明だった。
今回の研究では、ふ化して5日以内のメスのメダカを、酸化ストレスが起きやすい過酸化水素を含んだ水槽で育てた。その結果、高水温ではない環境でも約3割がオスになった。
これまでの遺伝子解析の結果、オスになったメダカの体内では活性酸素から身を守る「抗酸化酵素」が増えていることが分かっている。研究グループによると、今回の研究結果と遺伝子解析の結果から、活性酸素が過剰に発生して細胞を傷つける「酸化ストレス」がオス化を引き起こしていることが新たに判明した。
高水温下でコルチゾールが増加し、生殖腺に作用する過程でも、酸化ストレスが起きているとみて、更に研究を進める。
同様のメカニズムは、他の魚にも当てはまるとみられる。一般的にヒラメなどはオスよりメスの成長が早く、ヒラメの場合、同じ期間育てても、出荷時にメスはオスの約1・5倍に成長するという。
北野教授は「酸化ストレスを防ぐ餌を与えて養殖すれば、オス化を食い止めることができ、質の良いメスの魚を増加させることが期待できる」と話しており、ヒラメやウナギを使った共同研究も進めている。
研究成果は、スイスの科学専門誌「フロンティアーズ・イン・エンドクリノロジー」に掲載された。【栗栖由喜】