乗用車の利用を巡る行政の指示に従わなかったため生活保護の支給を停止したのは違法だとして、三重県鈴鹿市が10、11月に障害のある受給者から相次いで提訴された。市は、受給者の車の保有は原則として認められておらず、利用する場合は厳格なルールを守ることが必要との立場だが、受給者らは生活上の必要性に寄り添った判断をすべきだと訴えている。車の保有率が7割に達する中、相次ぐ提訴は生活保護受給者の「最低限度の生活」とは何かという問いを投げかけている。【寺原多恵子】
「買い物以外にも行きたい所はあるのに買い物もダメ、病院しかダメ、と言われるのはおかしいのではないか」。鈴鹿市在住で生活保護を受給する母親(80)と男性(54)は10月6日、停止処分の取り消しなどを求めて津地裁に提訴した。
男性は難病でつえを使い、長い距離を歩くのは難しい。母親も身体障害があり高齢だ。通院時の使用に限るという条件付きで車の使用を市から認められたが、目的外使用をしていないかどうかを確認するために、運転者や経路、走行メーターなどを記入した運転記録を提出するよう求められた。
親子は、運転記録の提出がプライバシーの侵害にあたると主張している。通院以外にも車を使用し、運転記録を提出しなかったところ、市は生活保護を停止した。
鈴鹿市によると、車の保有を認めた受給者に対し、運転記録の提出を求めているのは県内で同市のみだ。四日市市は運転記録の提出は求めていないとし、「車の使用を完全に認めているわけではないが、使っていないことを本人に証明してもらうほどの負担を強いることではないと考えている」とした。津市は自宅訪問時に口頭で状況確認などをしているという。
鈴鹿市は、運転記録が条件を守っているかの「客観的証拠になる」として妥当だと説明。「通院のついでに買い物などをすることまでは制限していない」と主張している。
7割でも認めず
そもそも、生活保護制度で車はどのように位置付けられているのだろうか。生活保護法では、保護を受ける人は、資産を処分して「最低限度の生活」を営むための生活費にあてなければいけないと定めている。国は車も資産とみなし、原則として保有を認めていない。
だが、生活保護制度に詳しく、親子への運転記録の提出指導が行われた際に鈴鹿市に意見書を提出した花園大の吉永純教授(公的扶助論)はこの原則に疑問を呈する。
すでに乗用車の世帯保有率は高い。日本自動車工業会の2021年の調査によると約78%に達し、地方では首都圏よりさらに高い。一方、冷蔵庫や洗濯機などの耐久消費財で、地域で7割の人が持っているものは生活保護世帯も保有を認められている。
近年は地方の公共交通機関が削減され、郊外に大きな商業施設ができたりするなど、車がないと生活しにくい状況が進んでいる。「生活保護問題対策全国会議」事務局長の小久保哲郎弁護士は「(障害者に限らず)地方に暮らす生活困窮者にとっては車が生活必需品だ。車の保有の制限が生活保護申請の大きな障害になっている」と指摘する。
乗用車の保有率が7割を超えても国が認めないのは、値段が高い▽維持費がかかる▽賠償能力がない――の三つだと吉永教授は指摘する。だが実際には低額で購入できる車もある。障害者には生活保護費が上乗せされる障害者加算で維持費や任意保険などが、働いている人なら、維持費は収入から控除される費用でまかなうことができ、「課題はクリアできるはずだ」と吉永教授は指摘する。
一方、生活保護を受給する障害者などは例外的に保有を認められる場合がある。車を所有する条件を示した「保護課長通知」では、障害者の通勤や通学目的などでの保有を認めている。
食べる、寝るだけは最低限度の生活?
ただ、障害があっても保有が認められないケースがあるのが現状だ。保有する乗用車の処分を求め、その費用の見積もりを取らなかったことを理由に鈴鹿市は11月、身体障害者の女性(70)の生活保護の支給を停止した。女性は四肢体幹機能障害で長い距離を歩くのが難しく、通院などのために車の保有を認めるよう求めたが、市はタクシーでの通院を提案。女性は停止処分の取り消しと損害賠償を求めて市を提訴した。
龍谷大の嶋田佳広教授(社会保障法)は、車の保有が制限されて生活が不便になり、雇用の機会が失われているケースなどもあるとして、「最低限度ということにこだわりすぎて全部削ってしまい、逆にどうやって生活をしていくのかという状況になっている。食べて、寝て、というだけが生活ではない。車を持っていいかどうかも含め、実質的な意味できちんと最低限度の生活が保障されるかが生活保護を考えていく上での一つのポイントだ」と指摘する。