買収した医療法人から1億円を横領したとして、大阪府警は28日、経営コンサルタント会社代表取締役の佐藤留美被告(52)(静岡県長泉町、詐欺罪などで起訴)を業務上横領容疑で再逮捕した。捜査関係者への取材でわかった。昨年8月からの1年間で、経営再建などを口実として買収した三つの医療関連法人から着服や詐取を繰り返していたとみられ、その総額は3億円に上るという。
経営コンサルタント会社は「
帝凰
(ていおう)グループ」(東京都江東区)。
捜査関係者によると、佐藤被告は今年7月、大津市の医療法人を買収する契約を結び、預かった通帳などを使って同法人名義の口座から1億円を別の口座に送金し、着服した疑い。
府警は8月、昨年8月に大阪市淀川区の医療法人から融資の担保名目で5000万円をだまし取ったとして、佐藤被告を詐欺容疑などで逮捕した。さらに、買収後の同年9月に5000万円を着服したとする業務上横領容疑で再逮捕。別に買収した東京都北区の薬局経営会社から約1億円を着服したとして同容疑で再逮捕していた。
府警によると、佐藤被告は、M&A(合併・買収)を仲介する業者を通じて、3法人と接触していた。
3法人のうち、精神科・内科クリニックなどを運営する大阪市淀川区の医療法人は被害後に資金繰りが悪化し、大阪地裁に民事再生法の適用を申請。昨年12月に同地裁が民事再生手続きの開始を決定している。
狙われたのは、いずれも経営再建や事業譲渡を検討していた医療関連法人だった。
新型コロナウイルスの感染拡大による受診控えなどの影響で、経営環境が厳しい医療機関は増えている。信用調査会社「帝国データバンク」によると、コロナ禍の影響で倒産した医療機関は、2020年の4件から21年は15件に上った。
「経営が苦しい病院なら救世主に見えるかもしれない」。大阪府内の医療法人の男性理事長(65)が取材に応じ、佐藤被告から事業譲渡の計画を示された状況を振り返った。
理事長が佐藤被告に会ったのは21年12月。英ベントレーの高級外車で事務所に現れ、法人の経営権や土地を約20億円で買収し、耳鼻科などを開業する計画を図面を広げて説明したという。
しかし、買収に先立ち、「コンサルタント料」として5000万円を要求され、不審に思ってグループについて調べると、所有する建物が差し押さえられていたことがわかり、今年2月に交渉を打ち切った。事業譲渡は見送ったという。
理事長は「自分は外科医で、経営の専門知識が乏しく、示された計画に納得しそうになった。弁護士や会計士など、身近に相談先を持って自衛しなければ危ないと思った」と語った。