国の特別天然記念物・タンチョウから、高病原性鳥インフルエンザが初確認された。鹿児島県の越冬地では鳥インフルでツルが多数死んでおり、タンチョウの保護関係者は「集団感染が起きれば最悪の場合、絶滅の危機に直面する」と懸念を深めている。(高橋敦人)
環境省と北海道の発表では、確認されたのは、11月20日に釧路市で回収された衰弱したタンチョウ1羽。この個体は幼鳥で、市内にある同省の施設で保護されている。道は、半径10キロ以内で野鳥の大量死がないか監視している。
冬場のタンチョウは給餌場に集まっており、懸念されるのは「密集」による集団感染だ。200羽以上のタンチョウが集まる鶴居村の給餌場「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」の原田修・チーフレンジャー(61)は、「密にならない給餌方法を考えなければならない。対策は待ったなしだ」と危機感を強める。
給餌をしている釧路市の「阿寒国際ツルセンター」の河瀬
幸
(みゆき)館長(46)は、「まずは人為的な感染が起きないよう努めたい」と話し、靴の消毒マットを複数置くなど対策を強化している。
環境省は2015年から、給餌の量を段階的に減らし、生息域の分散を図ってきた。鳥インフル確認後も給餌は続ける方針だが、同省は「どのような方法がよいか現在検討している」とする。
国内最大のツル越冬地である鹿児島県出水市では今秋、飛来したマナヅルとナベヅルがねぐらの水田で数百羽死んだ。鹿児島県によると、11月以降、周辺で死んだり衰弱したりして回収されたツルは960羽と過去最大規模で、このうち抽出検査で110羽から高病原性鳥インフルエンザが検出された。
タンチョウの感染確認について、NPO法人「タンチョウ保護研究グループ」(釧路市)の百瀬邦和理事長は、「恐れていたことがついに起きてしまった。渡り鳥のナベヅルと違ってタンチョウは生息域が狭く、『逃げ場』が少ない。1羽が感染した場合の全体への影響は大きい」と深刻に受け止める。ねぐらの人の目が届きにくい所にはドローンを飛ばすなどして、他の発生がないか監視を徹底する必要があると指摘する。
専修大北海道短大の正富宏之名誉教授(鳥類学)は、「タンチョウのウイルス耐性は不明だが、集団感染すれば絶滅の危機に直面しかねない。個体数を大きく減らさないためにも、餌場を新たに設けて生息域の分散を進めるのが急務だ」と話している。
◆タンチョウ=乱獲と開発で一時絶滅したとされたが、1924年に現在の鶴居村で再発見されたツル。国内の生息地は道内に限られ、52年に特別天然記念物に指定。給餌場が設けられており、道の今年1月の調査での生息数は1525羽。
今季の鳥インフル、早いペースで広がる
道内の野鳥の高病原性鳥インフルエンザは今季、各地ですでに13件が確認された。道によると、昨季の初確認は今年1月だったが、今季は10月8日に初確認され、大幅に早いペースで感染が広がっている。
道は「秋口に道内に到着した渡り鳥が感染経路とみられる」と推定。鳥インフルはヒトに感染しないとされるが、死んだ野鳥を見つけた場合も「感染を広げかねないため素手で触らず、近くの行政機関に電話をしてほしい」と呼びかけている。