「船が沈みよる…今までありがとう」 沈没直前の緊迫した様子明らかに

「船が沈みよる。今までありがとう」。北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」が沈没した事故で、乗客の一人は船上から親族に携帯電話で伝えていた。運輸安全委員会が15日に公表した経過報告には、乗客乗員26人のうち20人が犠牲になり、6人が行方不明となった大惨事に至る緊迫した様子が克明に記録された。
「行ったらだめだぞ」。海が荒れることは前日から予想されており、事故当日の朝も、同業他社の社員がカズ・ワンの豊田徳幸船長=当時(54)=に、こう念を押した。だが、強風注意報や波浪注意報が発令される中、カズ・ワンは4月23日午前10時ごろに出航した。安全委が気象情報などから推測したウトロ港近く(北海道斜里(しゃり)町)の波の高さは7センチで、当時はまだ穏やかな海だった。
午前11時47分、折り返し地点の知床岬付近では、すでに運航会社「知床遊覧船」が運航中止を判断する基準の1メートルを超えた。天候の悪化を懸念した関係者が豊田船長の携帯電話に連絡したがつながらず、その後も通話できなかった。
午後1時2分ごろ、親族からの電話を受けた乗客は、下船後に昼食を食べると話した。会話の様子から慌てている印象なかったという。だが、豊田船長は異変に気付きつつあった。
「カシュニです。ちょっとスピードが出ないので、戻る時間、結構かかりそうです」。同7分ごろ、心配した同業他社の社員がアマチュア無線で呼び掛けると、豊田船長はこう応答した。往路約17ノットだった速度は3~4ノット程度に落ちていた。海の様相も一変。半島西側の観光名所「カシュニの滝」沖合の沈没場所付近では波の高さが2メートルを超えていたと推定される。
「浸水している」「救命胴衣を着せろ」。アマチュア無線から聞こえる船内の様子は緊迫度を増し、豊田船長は「船の前の方が沈みかけている。救助してくれ」とSOSを発した。
「バッテリーだめ。エンジン使えない。救助頼む」。同18分ごろ、乗客が携帯電話で118番通報。このころには船体への浸水が進み、船は前方に傾いていたとみられる。同20分ごろ、乗客の一人は親族にこう伝えた。「船が沈みよる。今までありがとう」
安全委の船舶事故調査官が確認した最後の通信内容は、沈没直前まで別の乗客が同21分から約5分間にわたる親族との会話だった。「浸水して足まで漬かっている。冷た過ぎて泳ぐことはできない。飛び込むこともできない」-。
その後、カズワンは同26分以降、短時間で沈没した。