北海道江差町の社会福祉法人「あすなろ福祉会」が運営しているグループホームが知的障害のあるカップルらに不妊処置を求めていた問題で、道は19日、施設職員らへの聞き取り調査を始めた。一方、施設側は同日、記者会見を開いて「不妊処置の強制はなかった」と説明した。道は、江差町とも連携して事実確認の調査を進め、施設の対応が適切だったのかを判断する。
問題を巡っては、グループホームに入所する知的障害者のカップルが、結婚や同居を希望する場合、男性はパイプカット手術、女性は避妊リングを装着することが条件となっていたことがわかっている。20年以上前に始まったとみられる。
松野博一官房長官は19日午前の記者会見で「本人の意に反して、不妊手術や受胎調節などを条件とすることがあれば不適切である」と話し、厚生労働省から北海道に対し、事実関係の確認を求めているとした。
施設は、障害者総合支援法に基づき、スタッフによる生活援助を受けながら知的障害者が共同で生活する「グループホーム」に指定されている。道は運営を指導する立場だが、道障がい者保健福祉課の担当者は、取材に対して「これまで不妊処置を把握していなかった。まずは事実関係の確認を最優先に進める」と語った。
一方、あすなろ福祉会は19日に記者会見を開き、樋口英俊理事長が「不妊処置の強制は一切ない」と強調した。法人によると、これまでに不妊処置したカップルは8組16人。このうち2組が結婚、6組がグループホームで同居したという。
施設側の説明によると、入所するカップルから結婚や同居の相談があれば、本人と保護者との3者で話し合いの場を持つ。子どもがほしいとの意向が示された場合、生まれてきた子は、施設としてケアの対象ではないことを告げるという。
樋口理事長は「うちの法人は経験値もないので、子育てのサービスを提供できないと伝える」と説明。8組のカップルについては、子どもがほしいのかどうかを、両親やきょうだいにも聞いたが、該当者はいなかったとしている。不妊処置を拒否するという理由で退所した入所者もいないとした。
また、記者会見に同席した梅村雅晴常務理事は「知的な障害があり、子どもを育てることができなかったり、子どもができたら困ったりするという方もいる。カップルで一緒に生活すれば子どもができる可能性がある。その部分をどうすればよいのか、保護者と本人と話し合ってもらっている」と語った。【三沢邦彦、山田豊】
障害者の出産と育児、体制不十分
今回の問題は、障害者の出産と育児を巡る体制の不十分さを浮き彫りにした。
道内で障害者の相談窓口を運営する社会福祉法人で働く女性によると、2020年ごろに札幌市内のグループホームに入居する知的障害を抱えるカップルの女性から「妊娠した。子どもが生まれても、このままグループホームで暮らせるか」と相談があった。相談を受けた女性が、札幌市障がい福祉課に問い合わせたところ、出産後に子どもと一緒に入居を続けることは「(制度上)想定されていない」との回答だったという。
札幌市の担当者は19日、毎日新聞の取材に対し、数年前の相談内容をすぐに確認できないと断りつつ「グループホームは24時間の育児の対応ができなかったり、他の入居者との問題もあったりと、子どもの入居は難しいだろう」と話した。
厚生労働省障害福祉課によると、グループホームへの入所は、障害者総合支援法に基づく「福祉サービス」の位置づけで、対象を成人としている。担当者は「入所するには、本人がホーム側と賃貸契約を結ぶ必要があり、(ホームで生まれて)親に監護権がある子どもとの契約は想定されていない。子どもの健全な育成のための機能も備わっていない」と説明する。
江差町に近い北海道南部にある障害者団体の関係者は「不妊処置が事実であれば許されない。しかし、責任を持って子どもを育てられないという施設の考えも全否定できない」という。一方、道内で障害者支援に取り組む女性は「グループホームで出産した人は、その後、ほとんどが施設を出て、ヘルパーを活用しながらアパートで暮らす。だが、福祉サービスであるヘルパーの利用回数の上限や時間に制限があり、安心して子どもを産み育てられる状況ではないことも多い」と話した。【山田豊】