日本の覚醒 「台湾有事」を阻止できるのは日米同盟のみ 習主席は安倍氏亡き後の日本を侮り もし勃発すれば丸焼けになるのは前線国家の日本

吉田茂首相が立ち上げ、岸信介首相が完成させた「日米同盟の原型」は、日本共同防衛だけではなく、「北東アジアの地域防衛構想」が組み込まれている。敗戦によって大日本帝国が爆縮を起こした後、樺太、千島列島、北方領土をスターリンのソ連に奪われたが、朝鮮半島、台湾では、冷戦の強烈な磁場の下で、分断国家となった大韓民国、中華民国が立ち上がった。
また、米国はフィリピンに独立を与えた。当時、韓国、台湾、フィリピンは力の真空であり、その防衛が喫緊の課題となった。実際、1950年には金日成(キム・イルソン)主席の北朝鮮が韓国に攻め込んでいる。
日米安保条約第6条の「極東条項」は、米軍が日本を後方拠点として、韓国、台湾、フィリピンを守ると記されている。日米同盟を親亀として、米韓同盟、米華同盟、米比同盟という子亀が生まれた。ここに太平洋戦争直後、米国の同盟国となったタイ、譜代の旗本というべき南半球のオーストラリアを加えたものが米国の太平洋同盟網である。
その実態は、NATO(北大西洋条約機構)に比べて悲しいほど弱い。この秩序を支えてきた大黒柱が、日米同盟である。
1972年、ソ連のダマンスキー島に攻め込んで手痛い敗退を喫した中国の毛沢東は、日米との国交正常化を急いだ。中国の正統政府が台北から北京に移った。
しかし、日米両国とも台湾が中国領だと認めたことはない。事実を客観的に見れば、中国は、南北朝鮮のように、冷戦の磁場で真っ二つに割れた分断国家のままである。台湾は一貫して西側にあり、96年、天才政治家、李登輝総統の下で堂々と民主化した。70年代以来、この台湾海峡の現状を維持することが日米両国の共通の政策である。
ソ連が消滅して間もない99年、北朝鮮の核武装計画を契機として、小渕恵三首相は、直接の対日侵攻がなくても、周辺有事において自衛隊を米軍の後方支援に投入できるようにした。そして、安倍晋三首相は2015年、集団的自衛権行使にまで踏み込み、日米同盟の抑止力を大きく向上させた。この四半世紀、日米同盟は大きく形を変えてきた。
「台湾有事」勃発を止めることができるのは日米同盟しかない。中国の習近平国家主席は、安倍氏亡き後の日本を侮っているであろう。日本の腰が砕ければ、誰も習氏を止められない。
もし、台湾戦争が勃発すれば、丸焼けになるのは太平洋の向こうの米国ではない。前線国家となる日本である。中国は慎重である。構えていれば戦争は起きない。何としても台湾戦争を止めねばならないのである。
■兼原信克(かねはら・のぶかつ) 1959年、山口県生まれ。81年に東大法学部を卒業し、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、総合外交政策局総務課長、国際法局長などを歴任。第2次安倍晋三政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。19年退官。現在、同志社大学特別客員教授。15年、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章受勲。著書・共著に『戦略外交原論』(日本経済新聞出版)、『安全保障戦略』(同)、『歴史の教訓』(新潮新書)、『日本の対中大戦略』(PHP新書)、『国難に立ち向かう新国防論』(ビジネス社)など。