コロナ下の大学生新卒採用やインターン(就業体験)の選考で広く用いられるようになったウェブテスト。そのテストでの替え玉受験が警察に摘発された事件は、就職活動に向き合う学生に強い衝撃を与えた。事件で浮き彫りになったのは、不正行為を依頼する学生の多さだ。就活生はなぜ不正を行ってしまうのか。その背景には何があるのか。就活中、または就活を終えた首都圏の大学に在籍する学生たちに語り合ってもらった。【司会・まとめ、大正大・中村勝輝(キャンパる編集部)】
不正受験は「暗黙の了解」?
――ウェブテストの経験は皆さんあると思いますが、今回、初めて不正行為が摘発されたことを率直にどう思いましたか?
D 今回の事件は、お金を払って替え玉受験を依頼していたのでやり過ぎだと思った。いくら就活のためとはいえ、お金を払ってまで不正はしたくない。
A ニュースを見た時は警察が思い切ったことをしたなと感じた。替え玉受験を請け負った側が逮捕され、利用した女子学生も書類送検された。これは社会的な抑止力になるし、問題提起にもなったと思う。
F 就活をテーマにした小説を読んだことがあるが、その中でもウェブテストの不正について言及されており、これまで暗黙の了解として、不正がまん延していたのだと思う。
――実際、不正は広く行われていたと感じますか?
B そう思う。実際、私の周囲の就活生も不正をしているから、自分がやっても大丈夫だろうと気楽に思っていた。でも今回、摘発を受ける案件なんだと知り、今後受けるテストへの危機感が強まった。
C 私も同じ。本選考のテストはしっかり勉強して自力で挑まないといけない、という意識が強くなった。
不正の手口は「替え玉受験」以外にも
――今回摘発されたのはお金を支払う替え玉受験ですが、皆さんが見聞きしたケースで、他の手口はありますか?
E お金のやりとりはないが、友人や知り合いの就活生の中には、理系の学生に協力してもらって受けていた人がいた。
B パソコンを2台用意して、1台で答えを検索しながらもう1台でテストを受けたという人がいる。
C 「解答集」を大学の先輩からもらった。ウェブテストは監視つきの会場テストと違い、答えを書き込む姿を他人に見られない。だから解答集を利用してもバレない。バイト先の子も使っていて、上の世代や就活を終えた人からもらうことが多いと思う。学内で出回っている場合もある。
A ネット上の就活指南サイトの中には、ウェブテストの対策として「解答集を使え」と書かれているところもある。解答集自体はフリマサイトやネットに出回っていると聞いたことがある。
――自分でも利用した、という方はいますか?
D 正直に話すと、私は国語や英語の設問で解答集を使ったことがある。ウェブテスト対策の勉強の仕方が分からないし、時間も無いという理由で解答集を使っている人は多いと思う。
B 数学的な思考力を問う数的処理のテストで同じく解答集を使った。解答集は複数出回るケースがある。
「みんなやっている」「どうせバレない」
――就活生が不正行為を行ってしまう背景には何があると思いますか?
F 「みんなやっていることだから」という意識や、人生の大事な局面で失敗したくないという意識が背景にあると思っている。
D テストの先に面接がある。その面接の土俵に上がりたいという思いや、入社したい気持ちは誰もが持っているからね。
B 私自身そうだが、解答集が出回っていると、どうしても使いたくなる心の弱さがあるし、どうせバレないから悪いとも思わないずるい考えもある。だから不正をしてしまうと思う。
F でも就活が壁になって落ち込んだり、精神を病んでしまったり、最悪の場合、自殺してしまったりする例もある。そういった就活生の不安や弱みにつけ込んで金もうけをする人は取り締まるべきだ。
E 就活に対する情報があふれ過ぎていることも、就活生の不安をあおっているように思える。その不安感から逃れるため、不正に手を出してしまうと思う。
D 自分だけで勉強することに限界があることも関係していると思う。大学によっては対策講座を設けているみたいだけど、私の大学には無いので、問題の解き方が分からない人も多い。
テスト対策の勉強時間がない現実
――今の就活の仕組みやあり方に何か問題があると感じますか?
D 不正の横行には就活の早期化が関係していると思う。学ぶ時間は少なくなる一方なのに、テストによるふるい落としはクリアしないといけない。そもそも大学生なのに、大学での勉強が評価されず、こんなに早く就活しないといけないのはなぜだろうという気持ちになる。
A 就活の準備や就活中にやるべきことの多さによって、大学生活が犠牲になることは大変なことだと思う。忙しい学業や部活を犠牲にできず、時間がないゆえに不正をしてしまう心理は、分からなくはない。
C 大学で教職の授業を受講していると、就活にまで手が回らない。けれど、本選考ではインターン参加者が有利になってしまうから、インターンにも参加しなきゃいけない。そうなると、勉強できる時間がないから解答集を使って、できるだけ時間を効率良く使いたい。そういう人が不正をしてしまうのではないか。
問われるテストの意義
――そもそも就活でウェブテストなどの筆記試験は必要だと思いますか?
D 本選考ではじっくりと人選するため、本人確認が厳格なテストセンターの利用が増える。でも夏のインターンとかは採用に直結しないケースも多いから、非対面で手軽に実施でき、コストのかからないウェブテストを使うと思っている。これは仕方ない部分もあるのでは。
B 大学名だけで判断されたくないから、テスト自体はあってもいい。
F 私も必要だと思う。学歴社会と言われる中で、大学名だけで門前払いをせず、学力を測る機会を設けてもらえていることはありがたい。
――でも、そのテストで不正行為が横行したら元も子もないのでは?
A 企業側の意図として、応募者が多すぎるから人数を絞り込むためテストをすることは理解できる。ただ最適解とは思えないし、今回の摘発を受けてシステムは変わると思っている。
B コロナ禍になってオンライン上でのやりとりが増えたことで不正がしやすくなっている。今回の事件を受けて、テストを行う企業側は今までのやり方でいいのか再検討するだろうし、就活生の側でも不正をする人は減ると思う。
C こんな問題だらけのテスト、いらないと思う。理系に有利にできているし、就活のために付け焼き刃で覚えた数的能力対策は意味ないと思う。それよりも自分の大学での勉強や頑張ってきたことをアピールできる面接で力を使いたい。
E 私も別になくていいと思っている。企業にとっては、学生が勉強してくれているという安心材料になるかもしれないが、その後の選考に活用されているとは思えなかった。
――ありがとうございました。
〈参加学生のプロフィル〉
A=大学3年生(就活中)
B=大学3年生(就活中)
C=大学3年生(就活中)
D=大学3年生(就活中)
E=大学4年生(内定済み)
F=大学4年生(内定済み)