物証なき父殺害 ALS嘱託殺人で被告の元医師 12日に初公判

2011年に母親らと共謀して父親(当時77歳)を殺害したとする殺人罪に問われた、元医師の山本直樹被告(45)に対する裁判員裁判が12日、京都地裁で始まる。山本被告は筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者への嘱託殺人罪でも起訴されており、一連の事件で初めての裁判となる。背景がどこまで解明されるかが焦点となりそうだ。
一連の事件は20年7月、山本被告と医師の大久保愉一(よしかず)被告(44)が、京都府警に嘱託殺人容疑で逮捕されたことで発覚した。全身の筋力が低下する難病ALSを患っていた林優里さん(当時51歳)=京都市=の依頼を受け、19年11月に薬物を投与して殺害したとして逮捕、起訴された。この事件の捜査過程で、両被告などに山本被告の父靖さん殺害容疑が浮上した。
起訴状によると、山本被告は母淳子(78)、大久保両被告と共謀して11年3月5日、東京都内のアパートなどで、靖さんを何らかの方法で殺害したとされる。
靖さんは事件当時、病死とされ司法解剖されないまま火葬された。その後に事件性が浮上した。起訴状にも死因は記されていないが、検察側は状況証拠の積み重ねで「遺体なき殺人」の立証を目指す構えだ。
ALS嘱託殺人事件とは分離審理
事件は、裁判官のみが審理するALS患者への嘱託殺人事件とは分離され、先行して審理される。また、3被告は別々に裁判が行われる。
山本被告と大久保被告は学生時代に知り合ったとみられ、病死に見せかけて高齢者を殺害する方法を説く電子書籍を共著で出版。大久保被告はブログなどで、安楽死を肯定する持論を展開していた。
捜査関係者によると、山本被告は靖さんが死亡する約1カ月前から、火葬や死亡診断書などに関して大久保被告とメールでやりとりしていた。淳子被告にも一部が転送されていた。当時、靖さんは精神疾患で入退院を繰り返しており、山本被告が淳子被告に送ったメールには「(靖さんが)周囲を不幸にする」などの記述があったという。
靖さんの死亡診断書は別の医師名で病死として作成されていたが、この医師は関与を否定し、診断書の作成過程も判然としていないとされる。起訴状に記載された殺害方法も「手段不詳」とあいまいだが、ある捜査幹部は「遺体が見つからない殺人事件でも立証できた前例はある。メールなどの状況証拠の積み重ねで、有罪を証明できる」と、自信を見せる。
淳子被告の殺人罪の初公判は2月13日で、弁護側は無罪を主張する方針。一方で大久保被告の公判日程は決まっていない。嘱託殺人事件に関しては現在も公判前整理手続きが続いており、起訴から2年以上がたっても裁判日程が見通せないままだ。【千金良航太郎】