「宗教がなければと、被告は苦しんだのではないか。私がそうだった」――。安倍晋三元首相の銃撃事件で山上徹也被告(42)が殺人罪などで起訴されたことを受け、親の信仰の影響を受けて育った「宗教2世」の男性(45)は語った。子どもより宗教を優先する親、困窮する生活、狭められた進路。被告と自らの境遇を重ね、「宗教に翻弄(ほんろう)された人生だった」と振り返った。
男性は京都府内ではんこ職人の父と専業主婦の母のもとに生まれた。子育てに悩んだ母は宗教によりどころを求めた。
6歳の時、家族でキリスト教系新宗教「エホバの証人」に入信した。父は腕の良い職人で稼ぎもあったが、はんこは開運など他の宗教を連想させるとして、廃業した。その後は職を転々とし、家族は3DKのマンションから、老朽化した狭いアパートへ転居した。
信仰に基づく親のしつけは厳しかった。集会で居眠りをすると、両親に電気コードで尻をたたかれた。
大人になってから母に「どれだけ苦しんだか分かる?」と聞いたことがある。母は「つらい思いをしていたことは分からなかった。申し訳ない」と謝罪したが、信仰が間違っているとは決して言わなかった。
山上被告の母は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への高額献金で一家を破綻させたとされる。男性は「自分の母と一緒。人生を家族にではなく、宗教にささげてしまった」と話す。
進路も制限された。男性は高校時代、トップクラスの成績だったが、大学には行かなかった。高等教育は多様な価値に触れ、気の迷いを生じさせるとして、望ましくないものとされた。父が職を転々として経済的にも苦しかった。男性は高校卒業後、IT関連会社に就職。何度か転職したが、その度に大卒との差を痛感した。
山上被告も奈良県の進学校に通ったが、困窮のため大学進学を諦めたとされる。男性は「年を取るほど、無念な思いを募らせたのではないか」と山上被告の心境を推し量った。
21歳の時、かつて交際した女性が脳腫瘍で亡くなった。しかし、宗教上葬儀には参加できなかった。「大切な人を見送ることもできない宗教に意味があるのか」。それが信仰から離れるきっかけになった。
男性は最近、「子どものころに宗教を選ぶ権利があれば、違う人生もあったのでは」と思う。暴力を肯定するつもりはないが、事件をきっかけに宗教2世の存在に光が当たったのも事実だ。「宗教に翻弄されている子どもは今もいる。彼らが人生を選択できるよう、社会が手を差し伸べてほしい」【山田毅】