松江市の路上で2021年9月、女性が頭部をハンマーで殴られて重傷を負った事件で、殺人未遂罪などに問われた同市東持田町の無職、秦靖洋被告(47)の裁判員裁判の判決が18日、地裁であった。畑口泰成裁判長は「自己中心的で身勝手な犯行に至る経緯などに、酌量の余地はみじんも認められない」として懲役8年(求刑・懲役10年)を言い渡した。
判決などによると、秦被告は同年9月2日、近くに住む女性方に窓を割って侵入。屋外に逃げた女性を追いかけ、ハンマーで背後から頭を複数回殴り、殺害しようとするなどした。
畑口裁判長は、被告が「ハンマーは偶然当たった」などとした主張について、女性の傷が集中していることなどに触れ、「意図的に狙わずに偶然にも傷が集中するとは考えにくい」と指摘。「人が死亡する危険性の高さを分かっていたことは明らかだ」とした。
事件が起きたのは残暑厳しい9月の朝、その日は雨が降っていた。被告は午前8時過ぎ、向かいに住む女性方のインターホンを押した。騒音の「苦情」を伝えるためだ。女性はそれまでに、騒音を巡って被告とトラブルになっており、警察の指導通りに居留守をつかった。
いったん自宅に戻った被告がハンマーを手に再訪し、女性方の窓ガラスをたたき割ったのは、その数分後。雨の中、自宅を飛び出した女性を約75メートルにわたって追いかけたという。公判で判明した事件の概要だ。女性の恐怖を思うと、いたたまれない気持ちになった。
法廷では、いわゆる「ご近所トラブル」では片付けられない異常さが明らかになった。発端は10年以上前、まだ幼い女性の子どもが、被告方の敷地内で騒いだことだった。女性は被告から注意を受け、近隣住民に謝罪して回った。
だが被告はその後も、車のエンジン音やドアの開け閉めなどについて苦情を伝え、次第に「嫌がらせ」へと発展する。自身が就職できないことなどの原因を「騒音のせい」と決めつけ、事件前にも脅迫文書を送ったほか、勝手に出前を頼むなどして逮捕されていた。
公判では、殺意の有無が争点となった。弁護側は事件時、被告が家族間の不和などによる心神耗弱状態だったことに加え、ハンマーの殴打も「偶然当たった」と主張。検察側は傷の深さなどに触れ、偶然ではあり得ないとしていた。
畑口裁判長は判決で殺意を認めた上で、心神耗弱についても「幻覚や妄想の症状はなかった」と退け、責任能力を認定。さらに騒音も「実際になかったと認められる」とし、被告が繰り返した苦情について「女性家族への逆恨みを正当化する理由として持ち出していたに過ぎない」とした。
女性は事件前、苦情を受け、子どもの友人を自宅に招かないようにするなど、神経をすり減らしてきたという。「雨の日の特有の匂いがすると、今でも身動きがとれなくなります」。法廷で代理人弁護士を通じて語った女性の言葉を聞き、やるせない思いがした。(玉田響子)