「無差別殺人起こしてから自殺したるわ どれだけの苦痛味わったかなんてわからんやろと思う」
「息子〇〇(原文は名前)を拉致し、僕を潰した殺人鬼の名と居場所を公表します」
元棋士の橋本崇載容疑者(39)がSNSに投稿してきた元妻への猛烈な怨みがうかがえる言葉の数々だ。強い怒りと恨みがついに爆発した昨年11月。橋本容疑者は、元妻などの本名と住所を明記した“爆弾”をSNSに投下する。これを重く受け止めた元妻の刑事告訴によって、2023年1月17日、滋賀県警は名誉毀損の疑いで橋本容疑者を逮捕した。全国紙社会部記者が語る。
「僕を地獄の底に落とした殺人鬼」
「橋本容疑者は2021年にSNS投稿した内容が問題視され、昨年12月に元妻への名誉毀損の疑いで1度逮捕されています。2度目の逮捕となった今回は、昨年11月の投稿が原因です。SNSに元妻の本名と住所を明記したうえで、『僕のすべてを潰した殺人鬼』『僕を地獄の底に落とした殺人鬼』などと罵ったとして、再び名誉毀損の疑いで逮捕されました」
現役時代から将棋界では異色の存在だった。奇抜なヘアスタイルや独特のファッションセンスで将棋ファンから愛されたのが橋本容疑者だ。将棋指しとしての実力もあった。プロのなかでも一握りの棋士しか足を踏み入れられないA級を戦ったこともある。引退したとはいえ、多くの人が元棋士の橋本容疑者を知っている。将棋界は震撼している。
ワインレッドのスーツに黄色く染めた短髪。2022年にスポーツ誌「Number」のインタビューに応じた橋本容疑者は現役時代を彷彿とさせる将棋棋士らしからぬ格好で誌面を飾っている。公の場で橋本容疑者が言葉を発した最後の機会だったと思われる。取材者に対して「イカつめの格好でいきますね」と自ら提案したというファッションからは、現役時代と変わらないサービス精神旺盛な性格がうかがえる。
「面白いんですかね?」告白していた将棋への複雑な感情
引退後の心境を語ったインタビューでは、「全然(対局を)観ていないですね」「(現役の棋士は)相変わらず藤井さんの将棋をべた褒めしているだけで、(中略)面白いんですかね?」など、将棋に対する複雑な想いが語られているものの、事件を予兆させるような言動は無い。
橋本崇載容疑者は、1994年に奨励会に入会。2001年にプロ入りを果たし、2012年の順位戦では最高位の名人への挑戦権を争うクラスのA級入りを果たす。かの羽生善治に勝利したこともあるが、橋本が人気を博したのはその実力だけではなかった。
「まじめな風貌の人が多い将棋界において、橋本八段はパンチパーマの金髪に派手な色の着物に身を包み、直截な物言いをする“棋界の異端児”でした。ただ、派手な見た目に反して、将棋はじっくり受けて反撃の機会をうかがう渋い棋風で知られていました。2015年には“二歩”という基本的な反則負けをして“二歩の人”として将棋ファン以外にも名を知られることになりました」(将棋ライター)
しかし、2021年に38歳という棋士としては異例の若さで突如引退を表明する。理由は“一身上の都合”としか公表されていなかったが、その裏には元妻との子どもの親権をめぐるトラブルがあったという。橋本容疑者の知人が声を潜めて語る。
元妻との離婚と子供の“連れ去り”
「橋本さんは2017年に結婚をしているのですが、2019年に奥さんが突如家を出てしまったんです。その時に子どもを連れていってしまったようで、それ以降、橋本さんは子どもと会いたくても会えない状況が続いていたようです。橋本さんは『連れ去りだ』と強く反発し、結局親権をめぐるトラブルに発展してしまいました。子どもと会わせてもらえない橋本さんは不満を募らせていました」
引退後のインタビューで橋本容疑者はトラブルの影響で対局に集中できず、自分の手番が回ってきたことに気づかないこともあったと語っている。突然の引退もこういった将棋に集中できない状況が続いていたことが原因だと告白していた。
日本の民法では離婚が成立した場合、どちらか片方の親のみが親権を持つ「単独親権」制度が採用されている。また、親権には「母親優先」や「現状維持」といった原則がある。母親が子供を連れ去った橋本容疑者のケースでは、元妻に親権が認められた。
「共同親権」活動に熱を上げていた
「橋本さんは引退を表明して間もなく共同親権を呼びかける運動を始めました。『子どもの連れ去りは犯罪だ』とかなり強い口調で演説していましたね。共同親権推進派の国会議員と雑誌で対談したり、講演会の講師として登壇することもあったようです。当時からTwitterでも連れ去りのことを呟いていたのですが、あまりに攻撃的な物言いに反感を覚える人が多かったのも事実です」(将棋ライター)
離婚した夫婦が2人とも子どもの教育に携われるように共同親権を主張する声は少なくない。しかし、DV加害者の付きまとい行為などの問題点も指摘され、反対意見も根強い。橋本容疑者も家を出た元妻がDVの被害を訴えていたことを「デイリー新潮」の取材で明かしている(本人はDVについて否定している)。
現役時代から相変わらずの“異端児”ぶりをSNSでも発揮していた橋本容疑者。しかし、普段の容疑者はいたって落ち着いた様子だったようだ。橋本容疑者が問題のツイートをする直前に、彼が生活の拠点としていた福岡市内で会っていたという知人男性は当時の様子をこう語る。
移り住んだ福岡を気に入っていたが…
「橋本さんの様子はいたって落ち着いていました。引退直後はうつ病のような状況だったと聞いていたのですが、会った時には『福岡は物価も安いし、食べるものもおいしい。最近はもっぱら食べ歩くのが楽しみだ』と元気な笑顔を見せてくれました。
もちろん、“連れ去り”のことも話題に上がりました。『元妻にはすべてを奪われた。自分と同じように連れ去りで苦しんでいる人を知っている。自殺した人もいるんだ。民法を改正しないとだめなんだ』と現状に対する不満を口にしていました。ただ、口調が強くなることもなく淡々と話していましたね。だからこそ、あの後に逮捕されるような投稿をするなんて想像もできませんでした……」
先述の「Number」のインタビューにおいて、橋本容疑者は将棋講座の復活の意思を聞かれて、こう答えている。
「将棋を辞めた時のことがフラッシュバックするので、なかなかキツいんですよ。僕も泣きながら将棋盤を捨てたので」
元妻を殺人鬼となじるのは、断腸の思いで将棋盤を捨てたあとにするべきことだったのか。
(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))