「あなた方は、私の夢や私の子供時代を、空っぽな言葉で奪った」という、スウェーデンの環境保護活動家、グレタ・トゥーンベリさん(16)の言葉があちこちのメディアで取り上げられていますが、その数日前には小泉進次郎環境相の「セクシー」発言が物議を醸していました。
小泉環境相は「日本は1997年に京都議定書を採択したが、リーダーシップを発揮してこなかった。今日からわれわれは変わります」とした上で、「気候変動のような大きな問題は楽しく、かっこよく、セクシーであるべきだ」と発言。それを海外メディアが取り上げたことをきっかけに、「セクシーとはなんだ!?」「言語明瞭意味不明だ!」だのとメディアが批判的に報じ、SNSで批判が相次いでいるのです。
……が、発信元となっているロイター通信の記事を読めば分かる通り、記事の内容は「セクシー発言」を嘲笑したものでもなければ、揶揄(やゆ)したものでもない。「日本」が地球環境問題に取り組んでいないことを批判したものです。二酸化炭素(CO2)を多く排出する石炭火力発電の利用を続ける日本に「温暖化対策を本気でやる気があるのか?」と疑義を投げかける一方で、アントニオ・グテーレス国連事務総長も日本の消極的な姿勢を批判しているとしました。
「パリ協定の下で炭素排出量を削減するための具体策がある国だけが首脳会談に参加すべき」とし、安倍首相の参加に不快感をにじませた(記事より抜粋)、というのです。
……ふむ。いったい日本のマスコミは何をやっているのでしょうか。言葉尻を面白おかしく捉える暇があれば、日本が世界から批判されている現状を報じるべき。
件のロイターの記事にも記されていた通り、世界約150カ国の5000カ所で、政府が温室効果ガスの排出を制御できなかったことに対する恐怖と怒りを表明するためのデモが実施されました。日本でも23の都道府県で関連イベントが開かれ、学校を休んだ生徒・学生を含め約5000人が街頭行進などを展開したのです。
日本が「温暖化対策のリーダーシップ」をなくした理由
2017年11月、ドイツ・ボンで開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)で、日本は地球温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」を受賞。1990年代に世界の温暖化防止活動のリーダーシップをとっていたとは思えない不名誉な出来事です。
世界的に進む脱石炭火力の潮流の中で、日本だけが石炭火力の推進に力を入れ、石炭火力発電容量を追加している、G7で唯一の国。このままでは「温暖化対策に消極的な日本」への批判は高まるばかりで、国際社会から孤立しかねない状況です。
かつて欧州が環境政策を主導し、日本は環境技術力で存在感を示してきましたが、欧州はさらなるリーダーシップを発揮し、中国も頭角を現している。アップルやグーグル、ユニリーバといった欧米企業が技術力を高め、日本は完全に埋没しています。
セクシーがどうだとか言ってる場合じゃない。まさにこの連載タイトルの「ジジイの壁」。「前例がない」「組織の論理が分かっていない」を合言葉に、目立ちすぎる異物=小泉大臣に、徒党を組んで抵抗するジジイの壁が高く高く立ちはだかっていることで、「本当の問題=温暖化対策への消極的姿勢」が隠されてしまったのです。
そもそもなぜ、日本は温暖化対策のリーダー的立場を失墜してしまったのか? 理由は大きく2つ考えられます。
1つ目は、日本は世界に先駆けて先進的な省エネ技術を開発するなど、積極的に取り組んできたため、2000年以降は「これ以上やることはない」という言説の流布とともに、「米国や中国がもっとやるべき!」と責任転嫁をしてきました。そういった状況でトランプ米大統領がパリ協定からの脱退を表明。「アメリカがやらないんなら、日本だってやる必要ないじゃん」と、米国=世界と盲信する“ジジイ”たちが温暖化対策と距離を取り始めたのです。
それと同時に、これが2つ目の理由になりますが、日本には「将来のカタチ」が描かれていません。温暖化対策のような長期的な対策は、100年先を見据えた「国のカタチ」を描き、その姿に近づけるために前例を覆す努力が必要なのに、それにほとんど手をつけていません。
戦後日本のエネルギー政策は、原発と石炭火力の2本柱で進めてきました。それを大きく転換し、再生可能エネルギーや水素エネルギー、電気自動車活用などのエネルギー政策を早急に実行しなくてはならないのに、“ぼちぼち”しかやっていないのです。
「前例主義」から抜け出せないリーダーたち
エネルギー政策には既得権益が付きまといますので、企業側の転換も避けられない。そもそも環境省と経済産業省、縦割り行政になっていることも問題です。
「日本は本当にやる気があるのか?」と世界から疑いのまなざしを向けられても仕方がないくらい、日本の政策も組織もリーダーたちも「前例主義、互助会主義」から全く抜け出せていないのです。
東日本大震災は日本が過去のエネルギー政策から脱し、持続可能な政策について考える貴重な機会だったのに、全く生かせていない。むしろ「脱石炭火力」の流れを、原発推進の理由にしかねない状況です。
問題の本質を見ずに、都合よく情報を操作する。都合のいい情報を“チェリーピッキング”し続ける限り、日本はどんどん世界から置いていかれるのに、おそらく“ジジイの壁”の中にいる人たちには全く危機感がない。
それグローバル化だ、やれ世界と勝負だ! と威勢のいい声は聞こえてきますが、今や世界で企業が戦うためには「温室効果対策」は必要不可欠。海外で事業展開するには、工場や製品の省エネ化、物流のCO2削減抑制など、厳しくチェックされます。温暖化対策に積極的に取り組んでいない企業は信頼を得られず、「世界の戦い」に参加することすら制限されるのです。
昨年くらいから、いくつかのグローバル企業が、温暖化対策に積極的に乗り出す方針を示していますが、政府からはそういった意気込みが全く感じられないのです。
温暖化「ウソ論」に科学的根拠はない
今回はいつものネタとは若干違う方向性のコラムになりましたが、私は気象予報士でもありますので、最後にトランプ大統領のパリ協定離脱表明以降に再燃した、温暖化懐疑論についてお話しておきます。
結論からいうと、温暖化にはいまだ“不確実性”が残っていることは事実です。しかしながら、「温暖化のウソ論」を裏付ける科学的根拠は、一切認められていません。
例えば、ウソを訴える学者は……、
◎温度が上昇しているのは二酸化炭素によるものではなく、「太陽活動の影響だ」「ヒートアイランドの影響だ」といいますが、これらの影響を加味し分析しても、現在の気温上昇率の説明から、二酸化炭素の増加分の影響を取り除くのはムリ。
◎「実際には気温は上がっていない」などと批判しますが、こういった人たちは「上昇していない地点」のみ取り上げている。気温上昇は一様に起こるものではなく、地域差があるという大原則を無視している。また、気温の変化は線形ではなく、最初は極めて緩やかで、ある時点から爆発的に変化する。
◎「地球は温暖化ではなく、氷河期に向かっている」という人は、議論の“ものさし”を都合よく変えているだけ。一万年単位でみれば現在は「間氷期」。温暖化の議論は、100年単位を問題にしている。
といった具合に、誤解、曲解、時間的・空間的スケールなどを都合よく用いているだけに過ぎません。チェリーピッキングを多用することで、自分の主張があたかも「科学的エビデンスに基づいている」かのごとく主張しています。
つまり、「温暖化はウソかもしれないし、ホントかもしれない」。ただし、今のところウソを裏付ける証拠は全く確認されておらず、ホントを裏付ける証拠はいくつも確認されている」というのが正解、なのです。
「裏切るなら絶対に許さない」というグレタさんの涙の訴えを忘れないでください。
(河合薫)