「助成金もらうのは不正では」社内目安箱の意見も黙殺…水戸京成百貨店の雇調金不正

水戸京成百貨店(水戸市)による雇用調整助成金(雇調金)などの不正受給。不正は約2年半にわたって組織的に行われ、不審に思った従業員からの指摘も黙殺されていた。不正受給の総額は公表されている中では全国有数規模の3億円超。茨城県内唯一の百貨店で起きた不正の背景にはガバナンス(組織統治)の機能不全があった。(嶋村英里、土居宏之)
■5人で改ざん
同社によると、不正は新型コロナウイルスの感染拡大が契機となった。百貨店は2020年4~5月、緊急事態宣言に伴って一部を除く全館が休業した。同社は従業員の出勤を制限する代わりに休業手当を支給。国に助成金を申請し、受給分を「営業外収益」として計上するようになった。
だが、国への申請は虚偽の勤務実績に基づくものだった。取締役で総務部長だった男性が20年春以降、総務部人事担当に勤務データの改ざんを指示。人事担当課長ら4人が、実際には勤務している従業員を休業扱いにするなどしていた。
勤務実績はカードリーダーに従業員がカードをかざすことで自動で集計されるが、総務部はそのデータを改ざん。不正受給の延べ日数は20年4月から22年8月で、雇調金が2万3795日、雇用保険の非加入者が対象の緊急雇用安定助成金が161日に上った。
■虚偽報告続ける
内部でも不正を疑う指摘はあった。給与計算を不審に思った複数の従業員が人事担当に問い合わせていたほか、21年1月には総務部が設けた「目安箱」に「助成金をもらうのは不正ではないか」という意見も寄せられていたという。同部はいずれも黙殺し、内部通報制度は機能しなかった。
22年11月に茨城労働局の査察を受けた同社は調査を総務部に指示したものの、同部長は12月上旬まで事実を 隠蔽 (いんぺい)。「各部門が(処理を)間違えた」などと虚偽報告を続けた。芹沢弘之社長は1月31日の記者会見で、「総務部を監査するシステムがなかった」と組織体制の不備を認めた。
外部弁護士や親会社の京成電鉄による調査チームに対し、総務部長は前社長の指示があったとも主張している。ただ、前社長は否定しており、調査報告書では「指示は確認できなかった」と結論づけているという。
■「残念」の声
茨城労働局などによると、不正受給は県内で21年度に27事業所(計約1億7500万円)で確認された。3億円を超える不正受給は公表されている中では全国でも有数の規模だ。水戸市の主婦(75)は「3億円超の不正とは驚いた。開店当初から通い続けてきたので期待を裏切られて残念だ」と話していた。