〝コスパ〟重視で強盗にシフト…特殊詐欺の摘発強化も一因か

全国で相次ぐ強盗事件を巡り、フィリピンに拘束されている特殊詐欺グループが、強盗などの手荒な手段に「稼ぎ口」をシフトしていたことが、警察当局の捜査などで明らかになった。被害者に電話をかける「かけ子」の大量摘発や日本国内での特殊詐欺の摘発強化が一因とみられる。専門家は、強盗の実行役が集められた交流サイト(SNS)上の「闇バイト」の危険性を若者らに周知する必要があると指摘している。
フィリピンから指示
フィリピンで拘束されているのは渡辺優樹(38)、今村磨人(きよと)(38)、藤田聖也(としや)(38)、小島智信(45)の4容疑者。フィリピンを拠点にした特殊詐欺グループとみられ、警視庁が窃盗容疑で逮捕状を取得している。
4容疑者は摘発逃れのため海外に拠点を置き、日本から呼び寄せたかけ子に、日本の高齢者宅に警察官などを装った詐欺の電話をかけさせていた。資産家などのリストを基に事前に電話をかけさせて家族構成や資産状況を聞き出し、標的を選定していたとみられる。電話で被害者をだますことに成功すると、日本にいる現金受け取り役の「受け子」が被害者宅を訪問していた。
2019年11月、フィリピン当局がマニラ近郊の廃ホテルで、かけ子36人を拘束。渡辺容疑者らは逃亡して摘発を逃れ、その後も特殊詐欺を続けていたとみられ、このグループによる特殊詐欺被害は60億円以上に上る。
特殊詐欺に高まる警戒
特殊詐欺で多額の金を得ていたグループがなぜ、強盗にシフトしたのか。立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は「コストがかかる特殊詐欺よりも、リターンが大きくコストパフォーマンスがいい強盗に移行したと考えられる」と分析する。
特殊詐欺は、かけ子や受け子を集め、拠点を設けるなど手間がかかる。警察も取り締まりや民間との連携など対策を強化。高齢者らの警戒心が強まり、特殊詐欺がやりにくくなったことが背景にあるとみられる。
小宮教授は「少人数、かつより短い時間で、簡単に多額の収入が期待できる強盗といった手荒な手段にシフトしたのではないか」と指摘する。
闇バイトで強盗に加担
多くの特殊詐欺事件では、受け子やかけ子などの末端要員が摘発されても、役割が複雑化しているため、指示役までたどり着くのは難しいのが現状だ。
一連の強盗事件で逮捕された実行役は、SNS上の「闇バイト」などで高額報酬につられて犯罪に加担した。実行犯同士は見ず知らずの寄せ集めで、指示役とは時間がたつとメッセージが消える通信アプリ「テレグラム」で連絡。特殊詐欺の特徴とも酷似しており、指示役の特定は難航するかに思われた。
だが、逮捕された実行役の携帯電話の解析から、指示していた電話の国番号がフィリピンに割り振られている「63」だったことが判明。フィリピンにいる渡辺容疑者らの関与が浮上した。
強盗は摘発率の高さから「割に合わない犯罪の代名詞といわれている」(捜査関係者)。渡辺容疑者らにとっては特殊詐欺と同様、実行犯は「捨て駒」だった可能性があるが、足のつきやすい強盗に手を出したのは誤算だったともいえる。小宮教授は「実行役もリスクが低いといわれて犯罪に加担する。学校教育などを通じて闇バイトの危険性を周知し、若者らを実行役にさせない対策も必要だ」と訴えた。(宮野佳幸、王美慧)