造船作業中にアスベスト(石綿)を吸って健康被害を受けたのは国が適切な規制を怠ったためだとして、元作業員や遺族ら計11人が10日、国に総額約1億700万円の損害賠償を求める訴訟を大阪、札幌両地裁に起こした。造船作業員の被害は国の給付金制度の対象外になっており、救済範囲の拡大も訴える。弁護団によると、造船作業を巡る被害で国に賠償責任を問う訴訟は全国初。
原告数は大阪10人、札幌1人。訴状によると、原告は1953~2003年ごろ、船舶の内装や設備の工事を担い、肺がんや悪性中皮腫を発症した作業員やその遺族ら。国が作業員の防じんマスク着用を船舶会社に義務づけるなど適切な対策を怠ったとして、国に慰謝料などの賠償を求める。
建材の石綿被害を巡っては、最高裁が21年5月、国とメーカーの一部の賠償責任を認定。給付金制度(1人当たり最大1300万円)の創設など救済が進む一方、造船作業員は対象外になっている。
厚生労働省によると、船の製造や修理作業で石綿被害を受け、労災や遺族給付の支給決定を受けた人は07~21年度で約1800人。建設業の約8000人に次ぐ規模になっており、弁護団は「国の給付金制度の見直しにもつなげていきたい」と訴えている。
神戸市内の大手造船会社で働いていた男性は68年から約10年間、石綿を含む建材の切断や張り替え作業中に粉じんを吸い込んだ。肺がんを発症し、15年に70歳で亡くなった。
原告に名を連ねた男性の妻は「子どもも独立し、夫婦で旅行するなどして過ごそうと思ったがかなわなくなった。国には謝罪と誠意ある対応を望みます」とのコメントを出した。
札幌地裁に提訴した女性(69)=札幌市=は21年8月、中皮腫を発症していた夫を失った。69歳だった。夫は北海道東部の造船関連会社で働き、道内各地に係留中の船にエンジンを取り付ける際、配管に石綿を含む断熱テープを巻き付ける作業に従事していた。
女性もコメントを公表し、「同じ病気になっているのに、職業の違いで救済されないのは理解できない。国から不当な差別を受け、理不尽な思いをして苦しんだ」と訴えた。
厚労省は「コメントは差し控える。訴状が届き次第、関係省庁と連携し、適切に対応していく」としている。【安元久美子、米山淳】