自らの暴言で母が去り…孤独を募らせ自宅に放火、逃げ遅れた弟を死なせた男に有罪判決

自宅に火を付けて全焼させたとして、現住建造物等放火罪に問われた住居不定、無職の男(64)の裁判員裁判の判決が8日、松江地裁であった。畑口泰成裁判長は、被告が精神障害による心神耗弱状態だったと判断し、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役5年)を言い渡した。
判決によると、被告は2021年9月2日、島根県出雲市の自宅で、トイレットペーパーにマッチで火を付けるなどし、木造2階建ての家屋などを全焼させた。この火事で2人暮らしの弟が逃げ遅れて死亡した。
畑口裁判長は、母親が家を出て将来を悲観したとする動機について、「被告の思い込みによる身勝手な犯行」と指摘。一方、心神耗弱状態だったことに触れ「量刑上も考慮すべきだ」などとし、「執行猶予が相当」と結んだ。

法廷で語られた被告の性格は、真面目だった。事件前は同居する母親の通院を手伝い、重度の知的障害がある弟の生活も支えていたという。一方、自身も若い頃から精神障害を抱え通院を続け、自身を含めた3人の年金が頼りだった。
被告は、事件の数か月前から精神状態が不安定になり、高齢の母に粗暴な言動を繰り返すようになる。母は暴言から逃れるため、被告に居場所を告げないまま介護施設に避難。母のケアマネジャーも居場所を明かさず、被告は孤独感を募らせていった。
母の避難から約2週間後に、事件は起きた。被告は「母は一生自宅に戻らない」「生活が立ちゆかなくなる」と思い込み、将来を悲観。相談支援員の助言も受け付けられなくなり、弟と暮らす自宅に火を付けた。
母が避難したのは、障害に起因する被告の暴言が原因だった。ケアマネジャーが居場所を教えなかったのは、母の安全を思ってのことだろう。そして相談支援員は不安がる被告に「母はいずれ戻るから大丈夫だ」と伝えたという。
周囲は誰もが一生懸命だったはずだ。だがそれだけに、何の落ち度もない弟の犠牲を思うと、胸が締め付けられる。事件直前、症状を悪化させていた被告に対する社会的な支援は、十分だったのだろうか。判決を聞きながら、そんなことを考えた。(小松夕夏)