トルコ大地震で続発「パンケーキ崩壊」 過去にも被害、リスク共有は

犠牲者数が4万1千人を超えたトルコ・シリア大地震では、建物の各階層が重なるように崩壊する「パンケーキクラッシュ」が相次いだ。多数の人が逃げる間もなく崩壊に巻き込まれたとみられる。同様の現象は過去に日本でも起きているが、そのリスクが共有されているとは言い難い。西日本を中心に大きな被害が予想される南海トラフ巨大地震に備え、高知では独自の訓練を続けている。
144通りの状況再現
「被災地でのパンケーキクラッシュの状況を確認し、今後の訓練に生かしていきたい」。高知市消防局の担当者は産経新聞の取材にこう語り、表情を引き締めた。
高知県は南海トラフ巨大地震が発生した際、最悪のケースで全国最大となる高さ34㍍の津波や建物の倒壊などにより4万人超の犠牲者が出るとされる。これを踏まえ、高知市消防局が平成29年に導入したのがパンケーキクラッシュに対応できる全国初の訓練装置だ。
4階建ての建造物を想定し、複数の鉄板を自在に動かすことで、パンケーキクラッシュを再現。鉄板の角度を調整すれば144通りの状況を作り出せる。
訓練では、最上部や側面からカメラを差し入れて内部の崩壊状況や救助者の有無を確認する。床や壁を壊してがれきを撤去し、専用器具で内部を支えながら、助けを待つ人を救護するというプロセスだ。
高知市消防局では29年以降、年20回程度の訓練を重ねている。担当者は取材に「南海トラフ巨大地震に向けて、さらに対策や訓練を強化したい」と話した。
逃げ場なく惨事に
京都大防災研究所の倉田真宏准教授(耐震工学)によると、パンケーキクラッシュは地震で柱や壁が連鎖的に崩れ、残った床が何層にも重なる様子がパンケーキに似ていることから名付けられた現象だ。複数のフロアが隙間なく折り重なるため、建物内にいた人は逃げる空間がなく、生存率は非常に低くなる。
中層の鉄筋コンクリート造りのアパートなどのうち、床・はりと柱の接合が弱い建物や、柱の強度が足りない建物で起きやすいとされる。
倉田氏によると、パンケーキクラッシュはトルコ・シリア大地震だけでなく、1999年にトルコで起きたイズミット地震や2015年のネパールでの地震でも見られた現象という。
「導入されて間もない建築工法で全ての建物を作るとなると、習熟した技術者を確保できない。このままでは、また同じ被害が出てしまうかもしれない」と倉田氏。同様のリスクは、都市化が急速に進む全ての国や地域に潜むと警鐘を鳴らす。
阪神大震災でも
日本ではどうか。兵庫県によると、平成7年の阪神大震災では、2階を柱だけで支えるような吹き抜け構造の建物などでパンケーキクラッシュが発生した。壁がない分、強度が弱かったのが要因とみられる。神戸市立西市民病院(同市長田区)も、一部の階層ではあるが崩落し、パンケーキクラッシュの一例という。
こうした被災経験を教訓に、現在は建築構造の設計基準が見直され、壁に鉄筋を密に入れて強度を高めたり、柱も建物の重さに合わせて断面の部分を太くするなど対策を強化。耐震技術の進化に伴い、国内ではトルコやシリアで相次ぐパンケーキクラッシュが発生する可能性は高くないとされる。
一方、将来の巨大地震で部分的な崩壊が起きるリスクはある。倉田氏は「地域社会として脆弱な建物の改修を進め、身の回りでどこが危険か平時から把握すべきだ」と話した。(木下未希、前原彩希、鈴木源也)