同性婚に慎重な岸田首相が「LGBT法」成立は急ぐ訳 自民党の保守派は反発、政局の新たな火種

岸田文雄首相が、LGBTなど性的少数者に対する「LGBT理解増進法」の今国会成立に動き出したことが、自民党内の保守派の反発などで「政局の新たな火種」(閣僚経験者)となりつつある。
岸田首相は、2月3日の荒井勝喜元首相秘書官の「差別発言」による政権危機拡大を受け、6日にLGBT理解増進法案の国会提出に向けた準備を自民の茂木敏充幹事長に指示した。「悪い流れを変える狙い」(側近)とされ、官邸周辺からは「5月の広島G7サミット(先進7カ国首脳会議)前の成立を目指す」との声も漏れてくる。
かつては保守派の反発で頓挫
岸田首相の指示を受けた茂木氏は「自民として多様性を尊重し、包摂的な社会づくりにしっかりと取り組み、性的指向、性自認への理解増進を図っていきたい」と意欲を表明。ただちに、萩生田光一政調会長に党内調整を急ぐよう求めた。
これを受けて推進派の超党派議連は15日に開いた総会で、「(広島G7サミットまでの成立に)全力を尽くす」と方針を確認。総会には与野党約30人が出席し、新会長に自民党の岩屋毅元防衛相を選出した。
総会後、岩屋氏は成立に向けた課題について「最終的には文言調整になる」と指摘。併せて「(文言調整で)その精神がなくなることはあってはならない」として、差別禁止の趣旨は堅持すべきだとの考えを強調した。
ただ、同法案は2021年に超党派議連によって立法化作業が進んでいたのに、当時の最大実力者だった安倍晋三元首相を中心とする党内「保守派」の反発で頓挫した経緯がある。
これもあって、7日の自民総務会では「野党は夫婦別姓や同性婚と結びつけようとするが、切り離して慎重に議論すべきだ」などと、複数の議員から理解増進法案の取り扱いや具体的内容にくぎを刺す発言が続出。その中で「体は男でも心は女だからと女子トイレに入り、それをとがめたら『差別だ』では社会が混乱する」などの指摘も飛び出した。
また反対派の有力議員の西田昌司政調会長代理(参院)は「差別の禁止や法的な措置を強化すると、人権侵害など逆の問題が出てくる。社会が分断されないような形で党内議論をすべきだ」と法案推進派を強く牽制した。
党内議論を岸田首相は静観
一方、岸田首相側近の林芳正外相は、7日の記者会見で「日本以外の先進7カ国(G7)各国には性的少数者(LGBT)に対する差別を禁止する法令や同性婚法、パートナーシップ制度がある」と説明。「性的指向や性自認を理由とする不当な差別や偏見はあってはならない」と力説した。