「政治家になりたかった」男 ニセ議員バッジ着け不法侵入を繰り返すまで コロナに翻弄された人生 懲役2年6月求刑

偽の国会議員バッジをつけて外務省や厚労省、自民党本部などに侵入したとされる藤本叶人被告(22)。なぜそのような犯行に及んだのか。
捜査段階では、「偉い人の気分になりたかった」「承認欲求を満たすためにやった」などと供述していたが、裁判ではもっと深い事情を知ることができることもある。今回は14日に行われた被告人質問などから明らかになった事件の背景を追っていきたい。
藤本叶人被告(22)は、去年8月、偽の国会議員バッジをつけて外務省や厚労省、自民党本部に侵入した罪と去年6月、警視庁丸の内庁舎に侵入し腕章2個を盗んだ罪に問われている。藤本被告は起訴内容を認めている。
「政治家になりたかった」と被告人質問で述べた藤本被告。中学生の頃から国会中継を見たり、新聞記事の切り抜きをしたりしていたという。大学でも政治学や法律を学びつつ、国会議員の議員事務所でアルバイトをしていて、選挙活動の手伝いや書類の整理などをしていた。
順調に政治家への道を進んでいた藤本被告。しかし大学2年生のときに人生を大きく変える出来事がおきた。それが「新型コロナの流行」である。大学の授業がリモートになったことで、授業に参加しなくなり、熱心だった議員事務所のバイトは出勤日が減った一方で、深夜バイトにのめり込み、家に帰らなくなるなど藤本被告の生活は荒れていった。
そんな生活を見るに見かねた親から、「勉強を真面目にできないなら大学の費用を出せない」などと告げられると、藤本被告は家を飛び出したという。その後、藤本被告は、学費未納で大学を除籍となり、議員事務所のバイトも辞めたとのこと。
深夜バイトなどを続けながら、それなりに楽しく生活をしていた藤本被告。しかし、就職を決めた友人と再会したことで、「自分は『失敗したな』」と劣等感を抱き始めたとのこと。こうした劣等感が犯行の動機につながったという。
弁護人:「失敗した」とは何のこと? 藤本被告:大学に行かなくなったこと。 弁護人:なぜ議員バッジをつけた? 藤本被告:本物になったらどんな感じなのかをイメージしたかった。 弁護人:劣等感を払拭したかった? 藤本被告:そうですね。バッジをつけたらもっと頑張れると思った。
偽の議員バッジをつけて街を歩いた藤本被告。国会の衛視や議員会館の警備員に挨拶や敬礼をされることがうれしかったという。そして、「空気感を味わうため」自民党本部に、「トップクラスの省庁であり、外交に興味もあった」として外務省などに侵入。
これらの建物の中の雰囲気を感じることで、「やり直してここに来られるように頑張ろう」と、自分を鼓舞していたというのだ。以上が法廷で、被告の口から語られた事件の背景である。
検察側は「警備員に敬礼してもらったり、普通の人では入れない場所に入ることによって承認欲求を満たしたかった」という動機は、幼稚で酌量の余地がなく、同様の犯行を繰り返していていることから再犯の恐れも否定できず「厳しい刑罰が必要」として懲役2年6カ月を求刑した。
これに対して弁護側は「犯行に計画性はなかった」とした上で、深く反省し謝罪していることや、盗んだ腕章は、自宅にあった警視庁のマスコット「ピーポくん」のぬいぐるみにつけていて、悪用するつもりはなかったことなどを挙げて、執行猶予付きの”寛大な”判決を求めた。
検察官に「どんな政治家になりたかったのか」と問われた藤本被告は「児童教育や福祉の問題に取り組みたかった」と答えた。今後、社会に復帰した際もその道に進みたいと強調したのだった。裁判は、この日で結審し、3月2日に判決が言い渡される。
(フジテレビ社会部・司法担当 高沢一輝)