滋賀県日野(ひの)町で昭和59年に酒店経営の女性=当時(69)=を殺害して金庫を奪ったとする強盗殺人罪で無期懲役が確定し平成23年に病死した阪原弘(ひろむ)元受刑者について、再審開始を認めた27日の大阪高裁決定。争点の一つは、元受刑者が知人宅で飲酒していたと主張する事件当日の「アリバイ」を、どのように評価するかだった。石川恭司裁判長は「アリバイが虚偽と認めるには合理的な疑いが生じた」と判断した。
事件では、昭和59年12月28日夜に女性が行方不明となり、翌年1月~4月に遺体と金庫が見つかった。滋賀県警は63年3月、店の常連客だった元受刑者を逮捕した。
元受刑者は捜査段階で犯行を自白したが、公判では「警察官から暴行や脅迫を受けて自白を強要された」と無罪を主張。女性が行方不明となった日はアリバイがあるとし、「別の知人女性宅で飲酒してそのまま寝てしまい、翌日に帰った」と訴えた。
無期懲役を言い渡した平成7年の確定判決(大津地裁)は、このアリバイについて、実際にこの日に知人女性宅にいた4人がいずれも「(元受刑者は)知人女性宅にいなかった」と証言したことを踏まえて虚偽と認定。をついた理由は、「当夜の行動を隠したいから」と事件への関与をうかがわせる証拠とした。
一方、再審請求審で弁護団は、知人女性が判決確定後に一転して、元受刑者が主張するアリバイに沿う説明をした様子を録画したビデオテープの反訳書を新証拠として提出。この日の決定理由で石川裁判長は、この新証拠を基に「アリバイを虚偽として排斥するには疑問がある」と判断。「虚偽のアリバイを犯人性肯定の事情とした確定判決は動揺した」と認定した。
決定骨子
一、再審開始を認めた大津地裁の結論は正当
一、遺体発見現場の実況見分を撮ったネガの新証拠により、捜査書類の信用性などに疑問が生じた
一、事件当日にアリバイがあったとする元受刑者の主張を虚偽とした確定判決は、新証拠で合理的な疑いが生じた
一、被害者の拘束状況に関する実験結果でも、確定判決は揺らいでいる
一、奪われた金庫の発見場所の実況見分を巡っては、捜査官の誘導の可能性を指摘した地裁の結論を是認できない