海外での臓器あっせん事件で、NPO法人「難病患者支援の会」(東京)が患者側に対し、ベラルーシの病院について「現地の日本大使館から紹介を受けた」と説明していたことがわかった。大使館は「電話番号を教えただけだ」としており、警視庁は、NPOが在外公館の信用を利用するため虚偽の説明をした可能性があるとみている。
ベラルーシではNPOのあっせんで日本人患者3人が臓器移植を受けたことが判明している。このうち50歳代男性に腎臓移植をあっせんしたとして、警視庁は28日、NPO理事長の菊池 仁達 (ひろみち)容疑者(62)を臓器移植法違反(無許可あっせん)容疑で再逮捕した。
捜査関係者によると、患者3人のうち東京都内の40歳代男性は肝硬変を患い、2021年秋頃、親族がNPOの事務所で菊池容疑者と面会。菊池容疑者から「(検査結果が)ぎりぎりの数値だから早くした方がいい」と勧められ、海外での臓器移植を決めた。
NPOは同12月、男性宛てに「肝臓移植渡航計画」と題する文書を作成。移植費用として3300万円(予備費500万円を含む)を提示した上で、ベラルーシの首都ミンスクにある国立病院の名前を挙げ、「(現地の)日本大使館から紹介を受けた病院です」と記載していた。
現地でサポートや通訳を行うスタッフについても、「大使館から紹介された男性に加えて、現地のアルバイト(日本語専攻・大学生)を予定しています」と説明していた。
大使館「勧めることはない」
在ベラルーシ日本大使館によると、菊池容疑者は前年の20年7月、大使館に電話をかけ、同じ国立病院について「連絡先を教えてほしい」と依頼していた。対応した職員は、一般に公開されている病院の代表電話番号を伝えたという。
菊池容疑者はその後の22年5月、大使館に通訳の紹介も求めていた。大使館は日本語ができる人を数人紹介したが、その後、菊池容疑者から「いい人が見つからなかった。ほかにいないか」とさらに問い合わせを受け、職員が「分からないので、自分で探してほしい」と伝えたという。
在ベラルーシ日本大使館は取材に「大使館が特定の病院を勧めることはない。一般的なサービスとして、通訳を紹介することはある」としている。
一方、NPOに約3300万円を支払い、ベラルーシに渡航した男性は22年2月に現地の国立病院で肝臓移植を受けた。だが、術後に容体を悪化させ、帰国後に家族から改めて生体肝移植を受けたが、同11月に死亡していた。
同9月に同じ国立病院で腎臓と肝臓の同時移植を受けた別の40歳代男性も、術後に容体が急変し、同月中に亡くなっていた。警視庁がそれぞれ手術の経緯などを調べている。
厚労省が過去に調査、解明は進まず
海外での臓器移植を巡っては厚生労働省が2010年、大学病院など全国の247施設を対象に、実態調査を行っていた。
調査のきっかけは、今回と同じNPO法人「難病患者支援の会」の関係者が金沢大病院に出入りし、中国での臓器移植への協力などを医師に依頼していたことだ。中国では当時、死刑囚からの臓器の摘出が問題視されていた。
厚労省は247施設に調査票を送り、あっせん団体との接触などを尋ねた。10年2月に公表された調査結果によると、あっせん団体側から患者の情報を求められた例が4件あったほか、海外移植を希望する患者に検査データを渡していた例も1件確認された。
調査結果を受け、厚労省はあっせん団体から協力を求められても応じないよう全国の医療機関に注意を呼びかけた。だが、違法性までは確認されなかったとして刑事告発などは行わず、あっせん団体の活動実態の解明は進まなかった。
厚労省は今回の臓器あっせん事件を受け、海外移植の実態を改めて調査する方針だ。日本移植学会の医師らを通じ、海外で移植を受けた後に診療に訪れた患者の数や渡航先などを調べることを検討している。
厚労省幹部は「前回は医療機関側の対応を調べることがメインだったが、今回はあっせん団体の情報などをより幅広く集める必要がある」としている。