林外相はインドで3月1、2日に開催される主要20か国・地域(G20)の外相会合について、出席を見送る方向となった。参院予算委員会が2月28日の理事懇談会で、2023年度予算案の審議に出席を求めることを決めた。
理事懇談会では、23年度予算案の審議を巡り、岸田首相と全閣僚が出席する「基本的質疑」を3月1、2日に行うことで一致した。3日には、首相と鈴木財務相、要求された閣僚が出席する「一般質疑」を行うことでも大筋合意した。
3日は、インドで日米豪印4か国の協力枠組み「クアッド」の外相会談の開催が調整されている。野党がその日の予算委で林氏の答弁を要求すれば、クアッド外相会談も出席できない。
自民党の世耕弘成参院幹事長は記者会見で、「基本的質疑は非常に重要度が高い」と述べ、外交日程よりも優先せざるを得ないと説明。クアッド外相会談については、「(3日は)通告した閣僚に対する質疑なので、ぎりぎり間に合う可能性もある」と語り、野党と調整して出席を模索する考えを示した。
国会優先 国益損ねる
インドでのG20外相会合への林外相の出席を阻む形となる参院予算委員会の決定は、自由で開かれた国際秩序の堅持に向けた日本外交の決意と覚悟を疑われる事態を招きかねない。
G20は、国際秩序を揺さぶり、独自の主張を展開するロシアや中国もメンバーだ。対露政策で様子見を続ける国も含まれる。法の支配の重要性を掲げ、中露に対抗する結束を呼びかける日本の外交トップが不在では、その説得力は低下する。
先進7か国(G7)の議長国を務める日本は、対露制裁とウクライナ支援の議論を主導する役割を期待されている。広範な対露包囲網の形成には、G20議長国のインドとの緊密な連携が欠かせないが、そうした取り組みにも水を差しかねない。インドの現地メディアは「国内事情での外相欠席は、議長国インドをいら立たせるだろう」といった論評を報じている。
国会での予算審議の重要性は言うまでもない。とはいえ、予算委への閣僚出席を慣例で求めた与野党双方は「国会優先」と唱えるばかりで、外相の責務、優先課題を真剣に検討した形跡はうかがえない。予算委での答弁は副大臣や政務官でも対応可能だ。
首相や閣僚が過度に国会に拘束され、外交活動が制約される問題はかねて指摘されてきた。外務省幹部は「外交上、重大な損失になる」と危惧する。外交上の損失は、国益を損ねることを意味する。与野党と政府は今一度、国会審議のあり方を見つめ直す必要がある。(海谷道隆)