世界遺産の合掌造り「白川郷」、過疎化で「貸さない」ルール見直し移住受け入れへ

合掌造り集落で知られる世界遺産「白川郷」(岐阜県白川村)の住民が、半世紀にわたって守ってきた家屋の貸し出し禁止ルールを見直し、集落外からの入居者の受け入れに向けてかじを切る。伝統ある景観を守る知恵だったが、過疎化で将来を不安視する住民が増えたことで方針を転換させる。集落に縁のある近隣住民らから募集を始め、将来的には全国から募る考えだ。
1995年に世界文化遺産に登録された白川郷の荻町地区には、大きなかやぶき屋根が特徴の合掌家屋59戸が並び、築300年のものもある。戦前は村内に約300戸あったとされるが、71年には約130戸まで激減した。危機感を抱いた住民は同年、「白川郷荻町集落の自然環境を守る会」を発足させ、合掌造り家屋を「売らない」「貸さない」「こわさない」の3原則を柱とする住民憲章をまとめた。以来、同地区では地縁や血縁を頼りに家々を守り続けてきたという。
ただ、今では地区で暮らす約500人の3割超が65歳以上。村全体の人口も約1500人で、60年のピーク時から8割減った。2020年の住民アンケートに答えた約110世帯の3割が家屋を持ち続けることに「不安を感じている」としたほか、村から出て行って「空き家となって朽ちても仕方ない」とこぼす家主もいるという。合掌造り家屋にとって大敵の火災を防ぐ見回り活動の維持も困難になりつつあり、守る会の野谷信二会長(46)は「合掌造りを後世に残すためには今、対策しなければ間に合わない」と語る。

そこで、守る会は3原則のうち「貸さない」を初めて緩和し、第三者への貸し出しを認める方針を決めた。移住者の受け入れに際しては〈1〉地区出身者のUターン〈2〉集落に近い村民〈3〉村外――の順に優先する考えで、新たなルール作りに向けた住民の意向調査を始める。移住者が家屋の手入れを怠ったり、住民とトラブルになったりする事態を避けるため、「文化財の合掌造りの維持管理ができる」「地域行事に率先して参画する」などの条件も課す考えで、野谷会長は「住民と移住者の双方が満足できるルールを整えたい」としている。
白川郷と同様に世界遺産の合掌造り集落・五箇山地区(富山県南砺市)では、受け入れを決めた翌年の13年に県外から家族連れが移り住んだ。若い世代の移住によって集落出身者がUターンする事例も増え、同地区では今春にも新たな移住者を迎えるという。
白川郷での地域おこし協力隊の活動を機に、7年前に荻町地区で暮らすことが認められた千葉市出身の福田麻衣子さん(41)は「雪かきなどで住民同士が助け合う必要があり、移住者は地域に溶け込む姿勢が求められる」と話す。