盗撮目的で更衣室にスマホ設置、一審の建造物侵入「無罪」は何だったのか

山形県内で女子更衣室に盗撮目的でスマートフォンを設置したとして、県迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為の禁止)と建造物侵入罪に問われた男性に対する裁判を巡り、山形地裁と仙台高裁で異なる判断が出た。 山形地裁(土倉健太裁判官)は2022年3月、建造物侵入罪について「身体の全部が入っていなければ成立しない」として無罪と判断。一方、仙台高裁(深沢茂之裁判長)は2023年1月、「身体の大部分が入っていれば成立する」とし、一審判決を破棄し、有罪とした。 刑事弁護に詳しい神尾尊礼弁護士によると「『身体のどこまで入れば侵入といえるか』は、確定的な判例はない」という。詳しく解説してもらった。 ●山形地裁「体全部入らなければセーフ」 ●仙台高裁は「大部分、5秒程度入ってるから」有罪 一方、仙台高裁は ①明確に区画された独立の空間である女子更衣室内に ②盗撮するためにスマホを設置するという目的を達するのに十分な時間といえる5秒程度 ③頭部、両肩、左手全部、右腰部を除く上半身、左臀部及び左足全部を少なくとも入れていた と認定し、有罪としました。 ●結論ありきで処罰して良いのか? 刑法の謙抑性という大原則を守るべきではないか、結論からみて不当だから有罪にしてよいというのは乱暴だと私は思います。 また、刑法には不意打ちをしないという原則もあります。従来処罰の対象でなかった行為が、ある日突然、対象になってしまったら日常生活が萎縮してしまいます。 本件のような侵入は、通説では建造物侵入罪として問われていなかったのですから、少なくとも建造物侵入罪は成立しないとされるべきでしょう。特に「社会通念」というあいまいな基準にしてしまうと「犯罪にしたいから犯罪になる」といった結論ありきの議論になってしまいがちです。 例えば釣銭詐欺という類型があります。 釣銭が多いことに気付きながら受け取った場合=詐欺罪が成立釣銭が多いことに家に帰ってから気付いた場合=詐欺罪は成立しない 後者は、気付いたときにはすでにお金が移転していて、行為(不作為)と処分行為に因果関係がないので、詐欺罪には当たらないのです。詐欺の行為というのは「騙してお金を取った」ですので、因果関係がない以上、結論が分かれるのは逆に当然といえるのです。 もちろん、後者の場合でも無罪放免ではなく、遺失物等横領罪が成立したり、民事上の賠償責任を負ったりします。建造物侵入に関しても「その罪にはならないけれど、他の罪が成立する」という結論が妥当のように思います。 ●新設される「撮影罪」
山形県内で女子更衣室に盗撮目的でスマートフォンを設置したとして、県迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為の禁止)と建造物侵入罪に問われた男性に対する裁判を巡り、山形地裁と仙台高裁で異なる判断が出た。
山形地裁(土倉健太裁判官)は2022年3月、建造物侵入罪について「身体の全部が入っていなければ成立しない」として無罪と判断。一方、仙台高裁(深沢茂之裁判長)は2023年1月、「身体の大部分が入っていれば成立する」とし、一審判決を破棄し、有罪とした。
刑事弁護に詳しい神尾尊礼弁護士によると「『身体のどこまで入れば侵入といえるか』は、確定的な判例はない」という。詳しく解説してもらった。

一方、仙台高裁は ①明確に区画された独立の空間である女子更衣室内に ②盗撮するためにスマホを設置するという目的を達するのに十分な時間といえる5秒程度 ③頭部、両肩、左手全部、右腰部を除く上半身、左臀部及び左足全部を少なくとも入れていた と認定し、有罪としました。

刑法の謙抑性という大原則を守るべきではないか、結論からみて不当だから有罪にしてよいというのは乱暴だと私は思います。
また、刑法には不意打ちをしないという原則もあります。従来処罰の対象でなかった行為が、ある日突然、対象になってしまったら日常生活が萎縮してしまいます。
本件のような侵入は、通説では建造物侵入罪として問われていなかったのですから、少なくとも建造物侵入罪は成立しないとされるべきでしょう。特に「社会通念」というあいまいな基準にしてしまうと「犯罪にしたいから犯罪になる」といった結論ありきの議論になってしまいがちです。
例えば釣銭詐欺という類型があります。
釣銭が多いことに気付きながら受け取った場合=詐欺罪が成立釣銭が多いことに家に帰ってから気付いた場合=詐欺罪は成立しない
後者は、気付いたときにはすでにお金が移転していて、行為(不作為)と処分行為に因果関係がないので、詐欺罪には当たらないのです。詐欺の行為というのは「騙してお金を取った」ですので、因果関係がない以上、結論が分かれるのは逆に当然といえるのです。
もちろん、後者の場合でも無罪放免ではなく、遺失物等横領罪が成立したり、民事上の賠償責任を負ったりします。建造物侵入に関しても「その罪にはならないけれど、他の罪が成立する」という結論が妥当のように思います。