「袴田」再審決定 長期裁判で浮かぶ制度の課題

死刑判決が確定してから、すでに42年が経過した。その間、元被告の再審請求では、「有罪」と「無罪」で司法判断が揺れ動いた。制度の見直しが必要ではないか。
1966年に静岡県の一家4人が殺害された「袴田事件」の第2次再審請求で、死刑が確定した袴田巌元被告について、東京高裁は再審開始を認める決定をした。
焦点は、事件の1年2か月後、現場近くのみそ工場のタンクから見つかったシャツなどが、元被告のものかどうかだった。衣類には血痕の赤みが残っていた。
確定した死刑判決は、タンク内にあった衣類について、元被告の犯行時の着衣だと認定した。
しかし、高裁は今回、実験の結果などから、1年以上みそに漬けると、血痕の赤みは消えると認定し、衣類が元被告のものだとは言い切れないと結論づけた。
高裁は、捜査機関が衣類をタンクに入れた可能性が極めて高いとも指摘した。そうであれば、証拠の 捏造 (ねつぞう)まで行われたことになり、事態は極めて深刻だ。
これまでに要した時間は、あまりに長いと言うほかない。
最初の再審請求は81年に行われた。静岡地裁が2度目の請求を認め、再審開始決定を出したのは2014年のことだ。この時、元被告は死刑の執行が停止され、拘置所から釈放された。
だが、高裁は18年、地裁の再審開始決定を覆し、その後、最高裁は審理を高裁に差し戻した。検察側が今回の決定を不服として、最高裁に特別抗告すれば、決着までさらに時間がかかるだろう。
しかも、再審の開始が決まっても、その後、元被告が無罪かどうかを決める裁判が待っている。
再審開始決定が出た場合は、直ちに再審に移行して公開の法廷で有罪か無罪かを決める形に改めてはどうか。そうすれば、審理の時間を短くできるはずだ。
現行の証拠開示制度にも問題がある。検察側が衣類のカラー写真を開示したのは、2度目の再審請求が行われた後だった。
1984年に起きた滋賀県日野町の強盗殺人事件では、大阪高裁が先月、病死した元受刑者について再審開始を認めた。根拠となった遺体遺棄の状況を再現した写真のネガフィルムも、検察側が開示したのは再審請求後である。
再審請求は、刑事訴訟法に証拠開示の義務が定められておらず、検察側の消極姿勢が問題視されてきた。証拠開示のルールを明確にすることを検討すべきだ。