「逃げたら殺してしまうぞ!」同居男性を虐待・衰弱死させた“稀代の悪女”がそれでも「殺人罪」に問われない理由 から続く
滋賀県愛荘町で、同居していた男性に暴行し、十分な食事を与えずに衰弱死させたとして、傷害致死罪などに問われた同町の無職・小林久美子被告(57)に対する裁判員裁判公判が大津地裁で開かれている。3月1日には被告人質問が行われた。
小林被告は今年1月、別の時期に同居していた男性3人への傷害罪でも起訴され、有罪の部分判決が出ている。小林被告は、これまでにも何人もの人間を同じ方法で衰弱させ、刑事事件に発展しかねない虐待を繰り返していたと関係者らが別の公判ですでに証言している。
死因は腹膜炎による敗血症性ショック
2019年10月25日、病院に搬送された身長約172cmの岡田達也さん(当時25歳)は、体重が36.8kgしかなかった。19分後に採血されたが、血糖値は14しかなかった。死に至ってもおかしくない低血糖状態だ。
岡田さんの血液検査のデータを見た臨床検査医学の専門家は次のように話した。
「血糖値の正常値は70~109です。これが50~60になると、冷や汗が出ます。30だと意識朦朧になります。20を下回ると死に至ってもおかしくない。
14というのは通常では考えられない低値だし、私たちも目にすることはありません。絶食でも数日では下がらない。摂食障害も考えにくい。食べ物がなかったか、与えられなかったとしか考えられません」
直接の死因は腹膜炎による敗血症性ショックだが、「亡くなる一両日前に穴が開いたと思う。十二指腸に穴が開くというのはのたうち回るぐらい痛い。穿孔は放っておくと死に直結します」(同専門家)という。
小林被告の長女と3人で同居を開始
日常的に被害者に暴行を加え、苛烈な食事制限をしたとする検察側の主張に対して、傷害致死罪ではなく暴行罪のみが成立すると主張する弁護側の主張が激しくぶつかり合った。
弁護側の主尋問によると、小林被告が岡田さんと同居することになった経緯は次の通りだ。
弁護人「達也さんと知り合ったのは?」
被告人「達也さんの妻を通じて知り合った。達也さんの家に遊びに行き、普通に皆で話した。達也さんとはLINEを交換した。『今度は家に遊びに来て』と話した」
弁護人「達也さんの妻から聞いていたことはありますか?」
被告人「DVがちょっとしんどいと聞いた。前の奥さんともそれが原因で別れたと聞きました」
弁護人「達也さんと話して感じたことは?」
被告人「ちょっとやんちゃなところもあるけど、優しいところもありました。2018年10月初旬、私の家に遊びに来た。そのときは長女が一緒に住んでいたので、皆でおでんを食べながらお酒を飲みました」
弁護人「達也さんは何を話していましたか?」
被告人「妻の悪口が大半。給料を取りに付いてくるし、お金を全部向こうの親に取られると言っていました。結婚生活が不満で、『妻は浮気しているし、別れたい』と言うので、ここにいたらいいと言うと、『いいんやったら、おらしてもらうわ。ありがとう』ということになりました」
それで早々と同居することになり、小林被告の長女も合わせて3人で生活することになった。岡田さんと小林被告の長女は年齢も近く、「妻よりも彼女と付き合いたい」ということで、交際することになった。小林被告も交際に賛成し、「ここで頑張って仕事して、2人でうまくやっていきなさい」と応援していたという。
同じ部屋で寝ているうちに肉体関係を持ってしまい…
それから2カ月後の2018年12月、事件の共犯者とされる三男のX(21歳。傷害致死罪などで懲役11年、控訴中)が家に帰ってきて、4人で生活するようになった。小林被告は生活保護を受けている立場だったので、家賃を除いて月10万円あまりの保護費とXからもらう1万~2万円が生活費だったという。
だが、岡田さんと小林被告の長女の交際は長く続くことはなく、2019年1月には小林被告の長女が家を出て行ってしまった。それからは小林被告とXと岡田さんの3人暮らしになった。岡田さんは小林被告と同じ部屋で寝たりしているうちに肉体関係を持ってしまい、今度は小林被告と付き合うことになった。そのことを小林被告は「年が離れているし、周囲には恥ずかしくて言えなかった」と言うが、息子のXですら事情を知らず、「なぜ岡田さんが家にいるのか分からなかった」と述べるほどだ。
その後、岡田さんは仕事を辞めてXが勤めている解体屋で働くことになった。小林被告とXは岡田さんのことを「ハゲ」と呼び、給料を取り上げたり、家事などの雑用を命じたり、妻とは早く離婚するように求めていた。
岡田さんが2019年5月に仕事を辞めてからは、暴行や食事制限がエスカレートしていったとみられるが、小林被告はこれらをすべて否定している。関係者の証言や遺体の損傷具合などをまるで無視した証言だ。
「あなたが一方的に暴力を振るったことは?」
弁護人「達也さんから一方的に暴力を振るわれたことはありますか?」
被告人「2~3回ありますね。髪をつかんで引きずり回され、背中を蹴られました」
弁護人「お互いに手を出したのは?」
被告人「5~6回ありますね。結婚に関するケンカの流れもあったし、2人が同じようなことでイライラしたり、そういうのが原因。ケンカで道具を使うことはありません」
弁護人「あなたが一方的に暴力を振るったことは?」
被告人「10回ぐらいあります。手や足の甲を金属の棒でたたいた。他は肩とお尻を1~2度たたいた。手や足にアザができてたか、青くなっていたかはハッキリ分からないけど、骨折するようなケガではない」
弁護人「血が出ていたことは?」
被告人「達也が左手の甲を火傷していて、それを忘れて1回だけたたいて、血が出たことがあった」
弁護人「火傷の原因は?」
被告人「私はトイレに入っていて見ていない。私が足に火傷したことがあったので、そのときの薬を塗ってあげた。『包帯を替えるのが痛い』と言うので、靴下をかぶせた。病院へは行っていない。達也の妻に『保険証が欲しい』と連絡したが、受け取れなかった」
この点も小林被告の供述が変遷していて、捜査段階では「フライパンの油をかけた」と説明しているのだ。それがなぜか火傷の瞬間を見ていないことになっている。
「パチンコで負けたから暴力を振るったということは?」
弁護人「なかなか新しい仕事に就かないから暴力を振るったということは?」
被告人「ないです」
弁護人「食料を無断で食べたから暴力を振るったということは?」
被告人「ないです」
弁護人「長女は『達也さんに金属の棒を持たせて火傷している左手をたたかせていた』と証言しているが、これは事実?」
被告人「事実ではありません。火傷する前もそんなことはさせていません」
弁護人「パチンコで負けたから暴力を振るったということは?」
被告人「ありません」
弁護人「Xが達也さんに暴力を振るったことは?」
被告人「夏頃、スパーリングしているのを2~3回見たことがあります。(事件直前の)9月や10月は見たことありません」
弁護人「あなたがやらせたということは?」
被告人「ありません」
弁護人「あおったりしたことは?」
被告人「ありません」
弁護人「Xはどうして暴力を振るった?」
被告人「仕事してないんだから、ゴミ出しぐらいしといてくれというようなものでした」
あくまでも自らは手を出していないと主張
さらに家に出入りしていた関係者が暴行し、岡田さんが左腕を木刀で殴られ、腕が曲がりにくくなったことについて、「達也が痛くないと言うので、病院に行きませんでした」と説明。岡田さんが鼻を膝蹴りされ、タオル一面が真っ赤になるほどの出血があったこと、右足に深い傷を負ったのは「達也がフェンスの上に乗って飛んだ。そのときに着地に失敗してケガをした」と述べるなど、あくまでも自らは手を出していないという主張を続けた。
さらに主尋問は食事制限に関することに及んだ。小林被告には良心の呵責が感じられない。血糖値が14まで下がり、体重が36.8kgまで落ちていたのは、小林被告の“恒例”の食事制限が原因であることが明らかなのに、これも堂々と否定した。
弁護人「達也さんにはどんな食事を出していましたか?」
被告人「夕食は私が準備しますし、私はおかずとビール、達也は唐揚げや惣菜を買ってくることが多かったですね」
弁護人「お米は?」
被告人「小ぶりの丼に普通の量です」
弁護人「食事の回数は?」
被告人「最初は2食でした。でも、私が8月半ばぐらいから1食だけしか食べなくなると、『オレもそれでいいわ』と言われ、夜に1食だけになりました」
弁護人「数日に1食ということは?」
被告人「ないです」
弁護人「虐待するために食べさせないということは?」
お風呂は週に1回。掃除が面倒で入っていなかった
被告人「ないです」
弁護人「腐った味噌汁やお茶を出すということは?」
被告人「味噌汁自体がないです」
弁護人「他の人からもらうことは?」
被告人「Xやその交際相手からもらっていました。でも、嫉妬心というのか、あまり快くは思っていなかったです」
弁護人「人からもらうものを食べるなと言っていませんか?」
被告人「言っていません」
弁護人「8月以降に痩せていっている様子は?」
被告人「ありました」
弁護人「異変は?」
被告人「よく転んだり、つまずいたり、歩くペースが遅くなっていた。でも、携帯でゲームをしたり、やりたいことはやっていました」
弁護人「達也さんにヤクザの話を持ち出したことはありませんか?」
被告人「ありません」
弁護人「お風呂は入らせていましたか?」
被告人「週1回ほど。掃除してないから汚いし、めんどくさい。私も入っていませんでした」
被害者が訴えている内容すべてを「言ってない」と否定
さらに事件当日に関する質問に移る。小林被告は妙に冗舌に答えた。
弁護人「10月25日に救急搬送されたときのことを教えてください」
被告人「昼間にパチンコに行ったんですが、達也はフラフラして1人で歩けない状態だった。『ゼリーが食べたい』と言うので、コンビニでゼリーを買い、自宅に戻ってご飯を食べて、ゼリーも食べて、あとは普通に過ごしていた。
それでも頭がフラフラするというので、私は達也に留守番させて、ドラッグストアーに冷えピタと貧血の薬を買いに行きました。それを飲ませたら、達也が『ちょっと寝るわ』と言うので、私も横になった。すると、意識が朦朧としている状態で、返事がなかったので救急車を呼んだ。すでに呼吸がなかったけど、心臓マッサージをした。
救急車には私も乗った。達也の父や兄に『達也が大変なことになっているから来てほしい』と電話した。達也が翌日に亡くなった後は『解剖するから会えない』と言われました」
弁護人「関係者に『Xは殴っていないことにしてくれ』『食事はたくさん食べていたと言ってくれ』と頼んだことはありますか?」
被告人「一切ありません」
弁護人「自首はしてませんね?」
被告人「Xのこともあったし、自分も殴っているんで、これからどうなるんやろうと……。警察には言えませんでした」
小林被告は岡田さんの兄に電話をかけて、金を脅し取ろうとした恐喝未遂罪にも問われているが、「金を貸さんならヤクザを連れてそっちに行くぞ」と言ったことや、「妻と別れるために弁護士費用が必要だ」と言ったこと、「妊娠した子どもを堕ろす費用が必要」と言ったことなど、被害者側が訴えている内容すべてを「言ってない」と否定した。あくまで自分は悪くないという態度だ。
しかし、検察側はLINEに残っているメッセージや関係者の証言などをもとに、反対尋問で小林被告に斬り込んでゆく。
給料を取り上げ、骨折するまで暴行、火傷で広範囲に皮膚が剥がれ…衰弱死した25歳男性への“あまりにも酷すぎる仕打ち” へ続く
(諸岡 宏樹)