高市早苗大臣の放送法文書問題 岩盤保守層の支持失うのを恐れて岸田首相は更迭できず

放送法に関する総務省の行政文書を巡り、高市早苗・経済安保相が連日国会で集中砲火を浴びている。だが、この問題は、高市氏1人で終わらない。岸田政権が吹っ飛ぶ“地雷”がいくつも埋まっているのだ。
切れば遺産を失う
問題の文書は安倍政権時代、官邸が総務省を通じて政権に批判的なテレビ番組に介入しようとした経緯が書かれている。この問題が浮上した背景には、増税反対派の高市氏を追い落したい、財務省と総務省の思惑があるとも見られている。
文書が書かれた当時、外相だった岸田文雄・首相は直接関わっていない。つまり、高市氏を切れば、政権のダメージは最小限に抑えられるだろうが、それでも岸田首相は「高市更迭」を決断できない。なぜなのか。政治評論家の有馬晴海氏は、「首相は高市氏の背後の勢力を恐れている」と語る。
「高市さんには安倍政権を支えた岩盤保守層の強い支持がある。岸田首相と争った総裁選で健闘できたのも、安倍元首相の支援で岩盤保守層を引き継いだからです。もともと保守層に人気のない岸田首相はその層に配慮せざるを得ない。
昨年末の防衛増税を高市さんが批判した時、私は罷免されるだろうと思っていたが、意外なことに、岸田首相はその素振りも見せなかった。それほど岩盤保守層の反発が怖いわけです。ましてや、4月の統一地方選を控えたこの時期に高市さんを罷免して岩盤保守の支持を失えば自民党は大苦戦に陥り、党内の反発まで招く。だから岸田首相から高市さんを切れないのではないか」
政権を揺るがす総務省文書問題は、いわば安倍政権の“負の遺産”だが、岸田首相は岩盤保守層という安倍政治の“もう一つの遺産”を失うのを恐れて高市氏を切りたくても切れないというのだ。
その岩盤保守層の支持を引き継ぐ安倍派の面々はダンマリを決めこんでいる。文書作成当時の官房副長官で経緯を知りうる立場だったと思われる世耕弘成・参院幹事長は「真実を伝えているかどうかは別問題。関係者で精査してもらいたい」と他人事のような言い方をし、文書のテーマである放送法の解釈変更問題の後、自民党筆頭副幹事長として在京テレビキー局各社に“圧力文書”を送った萩生田光一・現政調会長は“飛び火は困る”と完全沈黙。さらに高市氏の総裁選出馬にあたって「推薦人代表」を務めた“盟友”の西村康稔・経産相も今回は逃げ腰だ。
政治評論家の伊藤達美氏も、高市更迭はないと見ている。
「この内閣はすでに4人の閣僚が辞任している。岸田首相にすれば、高市大臣を解任すれば5人目となって政権の失点になり、任命責任が問われる。また、高市氏の責任が確定しないまま切ってしまうと、保守陣営からの反発が強まる。こういう状況を考えると、解任はしないでしょう。