放送法の行政文書を巡り、高市早苗経済安全保障担当相の答弁がたびたび波紋を呼んでいる。
15日の参院予算委員会では、文書を「捏(ねつ)造(ぞう)」と主張する根拠の説明を求められ、「信用できないんだったら、もう質問なさらないでください」と発言した。
これに対し末松信介委員長は「国会議員の質問権をやゆしたり、否定したりするのは大きな間違いだ」と厳しく指摘。当初、野党からの謝罪と撤回の要求に応じる姿勢は見られなかった高市氏だが、20日午後に一転して撤回した。
国会での質疑は国会議員の本分である。ましてや政権の中枢を担う閣僚が、議員の質問権を否定することはあってはならない。国民の声をないがしろにしていると受け取られても仕方ない。
総務省が公表した行政文書は、首相補佐官が担当でもない放送行政に口を出し、法律の解釈を強引に変更しようとする密室でのゆがんだ政治プロセスをあぶり出した。
しかし、当時総務相だった高市氏は、自身への説明(レク)内容が記された2015年2月13日の文書を捏造と切り捨てたのである。
これを受けて総務省は、当時の関係者への聞き取りを実施。高市氏に関する部分について「大臣レクはあった可能性が高いと考えられる」と報告している。
それでも高市氏は「捏造」とする答弁を撤回するつもりはないと述べている。かつての自身の部下による行政文書を否定する発言で、閣僚としての資質が疑われる。
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総務省は従来、放送法の定める「政治的公平」に関して、「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」との見解を示してきた。
これに対し高市氏は15年5月の参院総務委員会で「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁した。
14年11月から15年5月までの行政文書の中の首相補佐官と総務省側のやりとりに沿った答弁であり、明らかな解釈の転換だ。
高市氏は翌16年2月にも国会で、放送局が政治的公平性を欠く放送法違反を繰り返し、改善要請に従わなかった場合、電波法に基づく電波停止もあり得る、との考えを明らかにした。
放送事業の許認可権を持つ総務相が「電波停止」に触れた答弁は、放送局を威圧した可能性が高い。
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今回、総務省の追加調査では、当時の首相補佐官が、安倍晋三首相に説明したとの記録も事実の可能性が高いことが明らかになった。
安倍政権下では、政府が突如、番組の政治的公平性を定めた放送法4条撤廃などを打ち出した経緯がある。
民放はもちろん、当時の与党からも反対の声が噴出して事実上撤回されたものの、行政文書が示すような意向が背景にあったなら問題だ。
この間、政治的公平性の解釈に変更はないというのが総務省の見解だ。
そうであるならば、高市氏の過去の答弁も撤回すべきだ。