ニュース裏表 峯村健司 政府の情報管理の問題点が露呈 極秘のはずが…岸田首相ウクライナ〝電撃訪問〟の罪

これほどオープンな〝電撃極秘訪問〟は前代未聞だ。
岸田文雄首相は21日、訪問先のインドからウクライナに向かった。一切情報を公開しない〝電撃極秘〟訪問のはずだった。だが、経由地のポーランドで、専用機から降り立った場面やキーウ行きの列車に乗り込む瞬間まで、日本メディアのカメラが捉えていた。
これがカメラマンではなく狙撃手だったら射殺されてもおかしくない距離といっていいだろう。それに追随する形で各社が一斉に〝電撃訪問〟と報じた。最も危険性が高いキーウへの陸路で移動する前から、岸田首相の行程が明らかになったのだ。
G7(先進7カ国)首脳の中で、ロシアによる侵攻後にウクライナを訪れていないのは岸田首相だけだった。ウクライナ支援が議題の一つとなる、5月に広島で開かれるG7サミットを前に現地を訪問できた意義は大きい。
しかし、訪問に至るまでの官邸による情報管理には問題があったと言わざるを得ない。読売新聞は1月22日付の朝刊で「首相、キーウ訪問検討、ゼレンスキー氏会談へ 戦況見極め最終判断」とスクープしていた。
記事では、「2月中の訪問を目指す」としていたが実現しなかった。複数の政府当局者に確認したところ、2月下旬の電撃訪問を計画していたが、このスクープが出たことで警備上の問題を考慮して断念に追い込まれた。
岸田首相の旅程が明らかになれば、会談するウクライナのゼレンスキー大統領の居場所も推測でき、ロシア側から攻撃されるリスクが高まる。しかも、自衛隊法には海外で要人を警護する明示的な規定がない。
このため、今回の警備はウクライナ側に頼らざるを得ず、交戦中のウクライナ軍に負担をかけることになる。岸田政権がウクライナ問題を重視しているのならば、自衛隊法の改正をしてから訪問をすべきだろう。
これと対照的なのが、2月のジョー・バイデン米大統領のウクライナ訪問だった。同行者は側近と武装したシークレットサービスら、ごく少数に絞り、2人の同行記者には訪問終了まで報道禁止とする協定を結んで情報管理を徹底した。
筆者は2015年から3年間、ワシントン特派員として米政府を取材した。大統領や国防長官らの電撃訪問を取材したことがあるが、一度も事前に漏れることはなかった。
「報道の自由」が重要なのは言うまでもない。ただ、以前からウクライナ訪問に意欲を示していた岸田首相の〝電撃訪問〟をスクープする必要性はどれほど価値のあるものなのだろうか。要人の生命や交戦中の相手国の安全保障よりも重要だとは、筆者には到底思えない。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、青山学院大学客員教授・峯村健司)