春先の知床ツアー「服装の再考を」 観光船事故1年、水難学会が提言

北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故を受け、一般社団法人「水難学会」は低水温期の海難事故を想定した実験を行い、29日に結果を発表した。防水性が高くマリンスポーツなどで使われるドライスーツを防寒着の上に着て体温の変化を調べたところ、水温0・5度の水につかった状態でも3時間は生存できる可能性があることが分かったという。
札幌市内で記者会見した長岡技術科学大大学院教授の斎藤秀俊・水難学会会長は「スキー場で普段着が推奨されないように、知床の春先の海を体験するツアーで普段着がふさわしいのか考え直したほうがいいのでは」と指摘した。そのうえで、水温が17度を下回ってくると生存可能な時間が短くなるとして「(そうした海に出る船に乗る場合は)ドライスーツ着用を標準化すべきだ」と語った。
カズワンの事故を巡る運輸安全委員会の経過報告によると、2022年4月23日昼の事故当時、現場海域の海面水温は約4度。一般的に水温0~5度の場合、人は15~30分で体温が28度まで下がって意識不明となり、生存可能な時間は30~90分とされる。斎藤会長は事故で亡くなった乗客らについて、「短時間でも生命維持が極めて厳しかった」とみる。
こうした状況を踏まえ、水難学会は性能が向上し、入手が容易となってきたドライスーツを用いた実験を計画し、2月下旬に実施した。実験では、長袖シャツとジーンズの標準装備に、上着として▽防寒ジャケット▽フリース▽トレーナーの3パターンを身に着ける服装を試した。これらの服装の上にレジャー用のドライスーツを着用し、0・5度の冷水に15分間ずつ入るという条件で体温の変化を確認した。
それぞれ体の複数箇所に温度記録計を付けて調べたところ、フリースやトレーナーにドライスーツの場合は上半身の体温が緩やかに下がったが、防寒ジャケットとの組み合わせでは体温が維持されたという。
斎藤会長は結果について「波の影響を考慮し、熱放出などを計算しても約3時間は生命を維持できる可能性がある」と述べた。さらに詳細なデータ分析や検証を続けるという。安倍淳副会長は「水の浸入を防ぐだけでなく、空気層が生まれて断熱効果で熱放出が抑えられる」と、ドライスーツの有効性を説明した。
一方、国は海に入らずに避難できるスライダー付き救命いかだの搭載義務化などの対策を進めているが、安倍副会長は「国の認証を受けた小型船用のスライダー付き救命いかだは開発中で、いつ完成するか分からない。現状では、ドライスーツと救命浮輪などを組み合わせることが現実的な対策だ」としている。【山田豊】