1歳葵ちゃんは渡米して心臓移植を待つ…両親「何としても無事に」費用5億円、試練の末に決断

米国での心臓移植を待つ東京都の佐藤 葵 (あおい)ちゃん(1)が30日、家族と現地へ出発した。母親で会社員の清香さん(38)が羽田空港で取材に応じ、「いよいよ渡米できる。何としても無事に移植を受けさせてあげたい」と語った。(野口恵里花)
葵ちゃんはこの日、清香さんとともに医療用チャーター機に乗り、米ニューヨークへ出発した。容体の急変などに備え、機内にはこれまで治療を担当してきた埼玉医科大国際医療センター(埼玉)の医師や看護師ら5人も搭乗した。
父親で自営業の昭一郎さん(41)も長女(4)を連れて別の旅客機で現地へ向かった。昭一郎さんは「多くの方のご支援に感謝しています」と話した。
葵ちゃんはニューヨークにある大学病院に入院する。適合するドナー(臓器提供者)がいつ見つかるか次第だが、平均的には半年ほどの待機期間で移植を受けられる見込みという。
川崎市の五十嵐 好乃 (この)さん(11)も米国での心臓移植を予定している。患者や家族が、費用面などで負担の重い海外での移植を選択せざるを得ないのは、国内の臓器提供数の少なさが最大の要因だ。

心臓移植を受けるため、30日に米国へ出発した葵ちゃんと家族にとって、この約1年半の月日は試練の連続だった。患者と家族の負担を軽減し、一人でも多くの子どもを救うには、国内の臓器提供数を増やしていくことが欠かせない。
葵ちゃんは2021年10月に生まれた。元気な産声を上げたが、右心室と左心室の間の壁に穴が見つかった。昨年1月に穴をふさぐ手術を受けたが、不整脈を発症。ペースメーカーを入れても改善せず、血液を十分に送り出せない重症心不全となった。
転院先の埼玉医科大国際医療センター(埼玉)からは、心臓移植を前提に補助人工心臓を装着するかどうか判断を求められた。装着せず、そのままみとられる子も少なくないと聞き、「これ以上、つらい思いをさせない方がいいのでは」との考えが母親の清香さん(38)の頭をよぎった。
だが、あどけない笑顔でやせた体を懸命に動かす葵ちゃんの姿が、心を揺さぶった。今はつらくても、移植で元気になればたくさんの楽しい出来事があり、喜んでくれるに違いない。そんな思いで、移植を目指すことにした。

海外での移植を決断したのは、一日でも早く手術を受けるためだ。
日本臓器移植ネットワークによると、心臓移植を希望する10歳未満の患者は先月末時点で48人。これに対し、国内で行われる子どもの心臓移植は年間数件程度にとどまり、手術が間に合わずに亡くなる子どもは後を絶たない。
葵ちゃんは治療の影響で血栓ができやすくなり、脳 梗塞 (こうそく)や感染症のリスクと隣り合わせの日々を過ごす。清香さんと夫の昭一郎さん(41)は病院と相談し、米国での移植を決めた。

高額な移植費用の工面と、精神的な負担の重さがハードルだった。
海外移植の費用は公的保険の対象外。円安もあり、病院への支払いや医療用ジェット機のチャーター代などで5億3000万円もかかると判明した。とても個人で賄える額ではない。寄付を募るしかないが、顔や名前を公表して募金活動を行えば、ネットなどで心ない言葉を浴びせられることもある。
それでも昨年11月、夫婦そろって記者会見を開き、募金を呼びかけた。幸い目立った中傷などはなく、何とか目標額をクリアして、受け入れ先の大学病院との調整が始まった。
海外移植については、途上国などでの移植を仲介していたNPO法人「難病患者支援の会」が2月に警視庁に摘発されたが、米国では自国民の移植機会を奪わない範囲で外国人の移植が認められており、途上国などでの不透明な臓器移植とは性質が異なる。

これまで4度の手術を乗り越えてきた葵ちゃん。最近は幼児向け番組を見て座りながら踊ったり、「まんま(ご飯)」としゃべったりするようになった。
清香さんは24時間体制で付き添い、身の回りの世話をしている。昭一郎さんは自宅で長女(4)の面倒を見ながら働いている。
昭一郎さんはこう訴える。「いつ移植を受けられるのか、先の見えない日々を過ごす家族の経済的、精神的な負担は大きい。もっと移植を受けやすい国になってほしい」

11歳女児も「元気になり卒業式に出たい」

米国での心臓移植を希望する川崎市の五十嵐 好乃 (この)さん(11)はこの春、小学6年生になる。小学4年の時に「拡張型心筋症」と診断され、入院している。
父親でタクシー運転手の好秀さん(46)によると、当初は国内での移植を考えたが、進行する病状を踏まえて海外移植を希望した。必要な費用はやはり約5億円に上るが、今月に入って募金が目標額に達した。
元気な頃は週に3日ダンスを習っていた好乃さん。今は病室で横になって過ごす日が多いが、調子の良い時はオンラインで学校の授業を受けたり、アイドルのオーディション番組を見たりして過ごす。最近は「手術を受けて元気になり、(来年の)卒業式に出たい」と話しているという。
入院先の国立成育医療研究センター(東京)と米テキサス州の病院間で準備が整い次第、出発する。