18歳、19歳を「特定少年」と位置づけて一定の厳罰化を図った改正少年法が施行されてから4月で丸1年。これに伴い裁判員の対象年齢も20歳以上から18歳以上に引き下げられ、今年からは18歳、19歳も裁判員に選ばれるようになった。だが、法律への関心や必要な知識は必ずしも広がっていない。若者への司法教育が大きな課題となる中、関係者は取り組みを加速させている。
「酒に酔うと、判断能力はどのぐらい鈍るんですか?」
3月中旬、東京都内で開かれた高校生向けの模擬裁判イベント。被告が酒を飲んだ後に後輩を呼び出し、包丁で刺してけがをさせた-という設定の殺人未遂事件の審理に弁護士役として参加した男子生徒は、こんな疑問を口にした。
飲酒という「未体験要素」も踏まえた上で、生徒らは犯行の計画性などを考慮し、被告に実刑判決を言い渡した。
参加した攻玉社高校の関根航大さん(16)は「人の一生を左右することを決める責任は重大。裁判員になるときに予備知識があるのとないのとでは、大きな差があると思う」と感想を語った。
イベントを主催したのは10代への司法教育充実を図ろうと今年1月に設立された一般社団法人「司法教育支援協会」。代表理事で元東京地検特捜部検事の熊田彰英弁護士は「刑事裁判の難しさを疑似体験をした上で、裁判員として送り出せる場を用意したかった」と明かす。
背景には、「若者の『司法離れ』が進んでいる」(熊田弁護士)という危機感がある。
平成28年施行の改正公選法で、選挙権年齢は20歳以上から18歳以上へと引き下げられたが、裁判員の対象年齢は20歳以上のままで据え置かれていた。
その後、18歳、19歳を「特定少年」とし、20歳以上と同じ刑事手続きが取られる検察官送致(逆送)の対象事件を拡大するとともに、起訴された場合は実名報道を可能にするなどとした改正少年法が昨年4月に施行。これに連動する形で、裁判員の対象年齢も18歳以上に引き下げられた。
裁判員に選ばれるためには、毎年作成される「裁判員候補者名簿」に名前が記載される必要があり、18歳、19歳が記載されたのは今年分の名簿から。約3700人が記載され、すでに通知が発送されている。
ただ、最高裁が昨年行った調査によると、18、19歳で裁判員に「参加したい」と答えたのは9・5%。「参加してもよい」は35・7%で、合わせても半数に満たない。
裁判員になる際の心配事については、47・4%が「素人に裁判という難しい仕事を正しくできるか不安」としており、予備知識の少なさが、二の足を踏む要因になっている可能性がある。
こうした若年層の関心の低さへの懸念は、裁判員にとどまらない。
裁判官や弁護士、検事になるための司法試験の受験者数は、口述試験がなく短答式試験と論文式試験だけで合否を判定する新司法試験に一本化された平成24年は8387人だったが、令和4年には3082人と、半分以下になっている。
熊田氏は「法曹の仕事に目を向ける若い人たちが減ってきており、このままだと司法を担う人材が枯渇してしまう。関心を高める取り組みが必要だ」と指摘している。(石原颯)