北海道・知床半島沖で昨年4月、観光船「KAZU I(カズワン)」(乗客乗員26人)が沈没した事故を受け、国土交通省は、2025年度以降に新造される小型旅客船について、甲板下の区画で浸水が広がることを防ぐ「水密隔壁」の設置を義務化する方針を固めた。今後、詳細を検討し、船舶安全法の省令「小型船舶安全規則」を改正する。
運輸安全委員会が昨年12月に公表した経過報告書によると、カズワンの甲板下は、船倉、機関室、 舵 (だ) 機 (き)室の4区画に分かれていたが、仕切る隔壁に穴が開けられていた。そのため、揺れで開いた船首ハッチから高波が船倉に流入した際、隔壁の穴を通じて機関室などにも浸水が広がり、沈没に至った。
事故では乗客乗員のうち、20人が死亡、6人が行方不明になっている。
現行規則では、カズワンのように港から往復2時間以内の「限定沿海」を航行する小型旅客船に水密隔壁の設置義務はない。ただ、報告書では、甲板下部に水密構造が採用され、浸水が船倉で止まっていれば、船は浮力を失わず、沈没しなかったとの試算が示された。
これを受け、国交省では、小型旅客船の安全性向上には、浸水拡大を防ぐための水密隔壁が必要と判断。また、高波による甲板下への浸水を防ぐため、現在は船首部のみに義務付けているハッチなどの水密化も、船尾部までの全体に求める。
建造予定の船への影響を避けるため、義務付けまでは一定の猶予期間を設ける。
既存船については、水密隔壁を設置するのは困難なため、浸水を検知する警報装置の設置や排水設備の設置を義務付ける。
国交省の分析では、過去の小型旅客船の事故約230件のうち「座礁・衝突・接触」が85%を占める。水密隔壁の設置は、こうした事故で船底から浸水した際に沈没を防ぐ効果も期待される。
事故を踏まえた安全対策では、既に通信手段を携帯電話から業務用無線に切り替えるよう求めることや、乗り移る際の落水を防止する機能が付いた改良型いかだの積載を義務化することが決まっている。
また、各事業者が航行中のヒヤリハット事例を事後に確認できるよう、自動車のドライブレコーダーのような記録装置の設置も義務付ける方向だ。