【検察vs政界 経済事件記者の備忘録】
「金丸脱税事件」異聞(16)
石川達紘=杉井孝コネクションを通じ、筆者には大きな窓が開いた。大蔵省は福祉から防衛まで国の政策全般にかかわる情報の宝庫だとわかった。
杉井は茫洋とした「大人」のふうを装っているが、実際は繊細、人情の機微にも通じ、親しい部下には自分の弱みもさらけ出す。一言でいうと、なかなか人間味あふれるおもしろい人物だった。暇を見つけては秘書課長室に遊びにいった。
法務・検察との関係はもちろん、予算、法案をめぐる政界や他官庁との関係、業法を背景にした各業界への天下り。その気になれば、護送船団を支えた権力メカニズムとそのダイナミズムをいくらでも取材できたのだろうが、残念ながら当時の筆者は政官財の権力犯罪にしか興味がなかった。事件記者の限界である。
国会が紛糾し秘書課長の杉井まで動員されてドタバタと与野党幹部のロビーイングに走りまわることがあった。それを「大変だねー」と言いながら、横目で見ているだけだった。突っ込んで取材していれば、政官財のより深いところが見えたのではないか、と今になって後悔している。
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最高検検事の石川に、最初に金丸の蓄財情報を持っていった国税庁調査査察部長の野村興児と査察課長の石井道遠の2人はいずれも、その前から石川と懇意だった。脱税告発など日常業務を通じて接点があり、おそらく、伊藤栄樹と磯辺律男が道筋をつけた「法務・検察」「大蔵・国税」の両組織の若手・中堅の懇談会でも顔を合わせる間柄だったのだろうと想像する。
石井は杉井直系のキャリア官僚のひとりで、金丸脱税事件のあと、石川=杉井の勉強会のメンバーにもなった。
金丸脱税摘発は本来なら、現場の東京国税局査察部と特捜部の告発ラインに乗せる話だった。しかし、隘路があった。下手をすると、政局にもなりかねない重大な事件。しかも、脱税での立件には、法律上の難関も予想された。下から積み上げる捜査スタイルでは、立件方針を決めるまでに時間がかかり、情報漏れの心配もあった。
失敗は許されない。迅速、果断にことを進める必要があった国税側としてはまず、検察トップに立件を決断してもらい、その了解のもと、極秘で検察側に国税との強固な協働体制を構築してもらう必要があった。
野村らがまず、石川に話を持ち込んだのは、当時の国税幹部の間に「石川さんならこちらの事情を理解し、うまく取り計らってくれる」(石井)との思いがあったからだ。
悪しき「官僚支配」そのもの