「経済の地盤沈下を打破」「問題が山積」 大阪IR開業へ期待と不安

カジノを含む統合型リゾート(IR)が2029年秋~冬ごろ、日本で初めて大阪市に開業する見通しになった。14日にも政府が議論した後、誘致している大阪府・市の計画を国土交通相が認定する。国内初のIRが誕生することに、地元では期待と不安が交錯している。
「全力で集中していく。住民の皆さんに安心いただけるように説明を尽くしたい」。10日に就任したばかりの横山英幸・大阪市長は12日、記者団の取材に開業への意欲を示した。現職時代に誘致を進めてきた松井一郎・前市長はツイッターで「(認定が)遅いけど、これで大阪ベイエリアがエンタメの拠点になる」と投稿した。
IRは、収益の中心となるカジノをはじめ、ホテルや国際会議場などを設ける施設だ。9日に投開票された大阪府知事・大阪市長のダブル選では、大阪への誘致の是非が争点になった。推進を掲げる地域政党・大阪維新の会が公認する吉村洋文氏が知事に再選され、同じく横山氏が市長に初当選した。吉村氏は当選確実になった9日夜の記者会見で「選挙によってIRは一定の民意を得た」と述べていた。
一方、誘致への反対論も根強い。IRの建設予定地である大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)では土壌汚染が判明したほか液状化の恐れがあり、市が地盤対策費788億円を負担することになった。カジノ開業でギャンブル依存症患者を増やすとの懸念もある。知事選の投票を終えた有権者を対象とした毎日新聞の出口調査(回答者6190人)では、IR誘致に賛成と答えた人が53%だったものの、反対の人も45%と半数近くいた。
市民からは誘致の是非を住民投票で決めるべきだとの声も上がり、22年7月には市民団体が19万筆超の署名を集めて直接請求。府議会に住民投票条例案が提出されたが、維新などの反対で否決された経緯がある。市民団体「夢洲カジノを止める大阪府民の会」で共同代表を務める大垣さなゑさん(65)は「ダブル選で維新が勝ったからといって住民の合意形成ができたとは言えない。情報開示が十分でなく、問題が山積している」と話した。
IRの誘致は経済の活性化につながるのか。IRに詳しい日本総研の若林厚仁・主任研究員は、日本の国内総生産(GDP)に占める関西の割合が1970年をピークに下がり続けているとし、「大阪経済は地盤沈下が起きている。状況の打破に有効なのが、インバウンド(訪日外国人)を中心とした観光業だ。IR誘致は期待できる」と語る。
一方で「もろ手を挙げて賛成はできない」と課題も挙げる。宿泊施設なども兼ね備えたIRが誘致されることで、周辺施設の消費が減る「カニバリゼーション(共食い)」を防げるかがその一つだ。また、新型コロナウイルス禍でインバウンドが大幅に減少したほかカジノや国際会議もオンライン化が急速に進んでいるとし、IRのビジネスモデルを脅かしているとも指摘する。若林氏は「さまざまな課題をクリアできるよう努力し、国民に納得してもらえる形で整備を進める必要がある」と強調した。【野田樹、石川将来】
父がギャンブル依存…お金なく夢諦め
「ギャンブル依存症は家庭を壊し、そこで育つ子の進学や就職の選択肢を奪い、心も潰す」。父の依存症で苦しんだ山口美和子さん(48)=堺市中区=はカジノ誘致に懸念を示す。
山口さんは鹿児島県出身。父は造園業などで財を成したが、知人の保証人になって借金を背負い、山口さんが小学校に入学した頃にはほとんど働かなくなった。パチンコ店に入り浸って家庭にお金を一切入れないため、生活は困窮し、両親は毎日のようにけんかをした。山口さんは中学生の時に母と温泉旅館に住み込むようになり、父や姉、弟と離れ離れになった。
進学や就職でも悔しい思いをした。家にお金がないため、高校は経済的負担が少ないところを選ばざるを得なかった。卒業後に指定の病院に就職すれば奨学金が返済不要になる制度を使い、看護師資格を取得できる私立高に進んだ。ただし、自身は准看護師の資格しか取れず、看護師を養成する課程に進むには受験料1万円が必要に。「本当は看護師になりたかったが、親には頼めなかった」と諦めた。
准看護師として大阪府内の指定病院に就職し、同僚の男性と結婚。5人の子を授かったものの、離婚して母子家庭になった。小学生から生後6カ月まで5人の子を抱えて途方に暮れた。母は既に他界し、生活力のない父に頼ることができないため、生活保護を受けた。
現在は訪問看護ステーションを経営しながら、生活困窮者を支援する活動もしている。困窮者にはパチンコなどのギャンブル依存症患者も多い。山口さんは「カジノはパチンコよりも大きなお金が動く。今よりもたくさんの人の家庭に不幸を招くのではないか。私のような経験をする子を生み出さないためにも、カジノ誘致を撤回するべきだ」と訴えている。【近藤諭】