カンボジアから19人強制送還 特殊詐欺グループが東南アジアにアジトを移す理由

不法滞在容疑でカンボジアの現地当局に拘束され、国外退去命令が出ていた日本人特殊詐欺グループの男19人を乗せたチャーター便が11日夜、東京・羽田空港に到着。メンバー全員が機内で詐欺の疑いで逮捕された。逮捕されたメンバー19人は20~50代で、中心的役割を担っていた指定暴力団「工藤会」の組員も含まれている。
今回の摘発は、メンバーとみられる人物が日本大使館に「ホテルに監禁されて特殊詐欺をやらされている。助けてほしい」と通報したことがきっかけ。在カンボジア日本大使館の通報を受けた現地当局が1月下旬、南部シアヌークビルのリゾートホテルで、観光ビザで入国していた日本人19人の身柄を確保した。メンバーらがこのホテルにチェックインしていたのは昨年12月下旬以降だった。
グループはNTTドコモを装い、日本国内の携帯電話番号に、連絡先を記載したショートメールを送信。電話してきた相手に「有料サイトの未払い料金がある」とウソをつき、電子マネーを購入させていた。電子マネーや現金を詐取する被害は昨年4月~今年1月、関東甲信越や九州地方で計約75件発生。手口が似ていることなどからいずれもこのグループが関与したとみられる。
「アジトとなった海辺のホテルの部屋には十数台の事務机が並べられ、複数の延長コードとパソコンがつながれ、まるでオフィスのようだった。部屋からは60台以上の携帯電話をはじめ、詐欺の手口マニュアルやメモ、被害者の名前が書かれた名簿も見つかった。ホテル内には居住用と仕事用の部屋があり、メンバーの多くが食事を含め、外出もせず施設内で過ごしていた。ほぼ全員が、日本にいる被害者にウソの電話をかけるかけ子だった」(捜査事情通)
■時差がなく物価が安い
フィリピンを拠点としていたルフィグループ同様、日本の特殊詐欺グループがタイやカンボジアなど、東南アジアに拠点を構えるのには、相応の理由がある。捜査関係者がこう言う。
「数年前から日本の警察の取り締まりが厳しくなったため、特殊詐欺グループは時差がほとんどなく、物価が安くて捜査の手が及びにくい海外に拠点を移している。海外リゾート地など、好条件でバイトを募集。到着と同時にパスポートや旅券を取り上げ、犯罪行為に加担させ、脅して逃げられないようにしている」
警視庁がフィリピンに滞在していたルフィグループの幹部らの逮捕状を取ったのは、2019年7月。それから実際に逮捕するまで3年7カ月を要した。原因は、警察や入管職員らの間で横行しているワイロだった。
「給料が安いため、警察や入管の特権を利用して日本人にワイロを要求するのです。それが日常的になり、金づるの日本人の身柄を引き渡したくないという事情があり、これまで日本の警察に協力的ではなかった。ただ今回は、大使館からのタレコミです。架空請求詐欺の場合、名簿に掲載されたメールアドレスに一斉送信するため、それを処理するだけの人手とOA機器、施設が必要です。1つの建物に多くの人員がいて、大量のパソコンが置いてあれば怪しまれます。それでバレたのでしょう」(前出の捜査関係者)
警視庁としたら、ルフィグループの身柄の確保に手間取り、その結果、詐欺や強盗被害を拡大させたことから、今回はわざわざ捜査員約50人をチャーター便で現地に派遣して、やる気を見せたのかもしれない。
いずれにせよ、昨年だけで被害総額約360億円に上る特殊詐欺事件に、暴力団組織がどこまで関与していたのか。警察は全容解明できるのか。