早稲田大学セクハラ事件のコメントに反響…あー地獄、もう傍観者になるのはやめよう(松尾潔)

【松尾潔のメロウな木曜日】#30
今週月曜(4月10日)、福岡RKBラジオの朝ワイド「田畑竜介グローアップ」で早稲田大学セクハラ事件の東京地裁判決について話したところ、たいへんな反響があった。番組の内容が掲載されたYahoo!ニュースは、九州・沖縄地区でアクセス数首位を記録。それを読んでぼくに連絡をとってきた首都圏のメディアもあったほどだ。
判決は、早大大学院で指導教官だった文芸評論家の渡部直己氏(71)からセクハラを受け、大学も適切さを欠いた対応をしたとして、現代文芸コースの元院生で詩人の深沢レナ(筆名)氏(32)が渡部氏と早大に計660万円の損害賠償を求めた訴訟に対してのもの。訴状には、16年入学の深沢氏は、渡部氏からふたりきりでの食事などを求められ、17年には「俺の女にしてやる」と言われたとある。大きな精神的ダメージを受けた彼女は授業から足が遠のき、18年3月には退学。その後相談した学内のハラスメント防止室は、退学者の訴えは取り上げないと受け取れる対応をしたという。東京地裁は双方に合わせて約60万円の賠償を命じた。
一見勝訴のようでいて、この数字は安い。安すぎる。年間授業費にも満たぬ金額、と書けばわかりやすいか。しかも深沢氏はセクハラに加えて教員の立場を利用したアカデミックハラスメントもあったと訴えていたが、東京地裁はその主張を退けた。「たった一度の過ち、冗談を言っただけ」という渡部氏の説明に納得しかねる彼女は、判決後の記者会見で「セクハラはたった一度の過ちなどではありません。被害者のその後の人生を決定的に変えてしまいます」と語った。
一方の渡部氏はどうか。この問題を受けて18年7月には教授を解任された渡部氏だが、すでに「復権」を果たしているとぼくの目には映る。翌19年には早くも主要文芸誌で健筆を振るっていたし、先月刊行されたばかりの単著に至っては、柄谷行人(81)と蓮實重彦(86)というこの国の「知の巨人」ツートップがそろって帯に推薦文を寄せているのだ。権威中の権威のお墨付きを得た敵。深沢氏の心痛はいかばかりか。同情を禁じえない。
あー、地獄。反吐が出る。
こんな物言いはぼくにしては珍しいかもしれない。告白すると、じつはぼくもかつて同じ大学で渡部氏の授業を受けていたのだ。もう30年以上も前の話だから、渡部氏もまだ30代後半か。現代文芸の授業中に新進女性作家の名前をだして「小説だけじゃ食えてない。俺が面倒を見ている」と自慢げに言い放ったことをよく憶えている。今回の「俺の女にしてやる」報道を見て、まだそんなこと言ってたのかと呆れを通り越して哀れみすら覚えた。そういえば、好きな作家を問われて連城三紀彦の名前を挙げたぼくに「こんなバカが俺のクラスにいるなんて信じられない。単位ならやるから出て行け」と暴言を吐いたこともあったな。渡部氏だけでなく、ぼくに一瞥もくれずに暴言を黙って聞き流す学友たちにも失望と幻滅を感じたものだ。