「社長は責任棚上げ」被害者家族会が共同声明 知床観光船事故

北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故から23日で1年を迎えるのを前に、乗客の家族ら28人でつくる「知床観光船事件被害者家族会」が20日、共同声明を発表した。家族は運航会社・知床遊覧船の桂田精一社長を「自身の責任を棚上げにして、会社の従業員や国に責任を押しつけている」と批判。国などのずさんな船舶の検査についても疑問を投げかけた。
この日、札幌市内で記者会見したのは知床観光船事件被害者弁護団。一部の家族は記者会見にオンラインで参加した。声明は、国の運輸安全委員会が2022年12月に公表した事故原因に関する経過報告に言及。ふたに不具合のあった船首部分のハッチなどから流れ込んだ海水が船内に広がり、沈没につながったとする原因について、「ずさんな管理体制を是正できなかった国や日本小型船舶検査機構(JCI)にも(運航会社と)同等の責任がある」とした。
また、海上保安庁に対して「捜索を続けてくださり、心から感謝している」としつつも、自衛隊に災害派遣要請をしたのが通報から6時間以上経過してからだったことなどの初動対応について「組織としての判断が正しかったのか、状況を正しく理解できていたのかという点に強い疑問を抱いている」との見解を示した。
乗客の家族らの現在の心境も明かされた。子どもが行方不明のままの福岡県の60代男性はオンラインでの記者からの質問に「事故以降、仕事も全くいけない。精神的負担が大きく、非常に苦しい」と吐露した。23日に北海道斜里町で開催される予定の追悼式については「行方不明のままだが、他の被害者の方をお参りするために家族全員で参加する」と話した。
このほか、十勝地方の40代女性は「大切な家族が無残な最期を迎えたという事実は自分たちが死ぬまで傷として残る。一生、癒えない」。他の家族は桂田社長に対し、「命を軽視し、罪の意識もない人間に私たちの家族が奪われたことにどうしようもなく憤りを感じる」とのコメントを寄せた。
一方、弁護団は今後、国家賠償請求訴訟を検討すると明らかにした。
事故を巡っては、これまでに乗客乗員26人のうち20人の死亡が確認された。6人は行方不明のままとなっている。【金将来、米山淳】