「そんたく」が事件の背景に 前会長ら、AOKIへ解決金5億円

東京オリンピック・パラリンピックを巡る汚職事件で、大会組織委員会元理事の高橋治之被告(79)=受託収賄罪で起訴=に計2800万円の賄賂を渡したとして、贈賄罪に問われた横浜市の紳士服大手「AOKIホールディングス(HD)」前会長の青木拡憲(ひろのり)被告(84)に対し、東京地裁(安永健次裁判長)は21日、懲役2年6月、執行猶予4年(求刑・懲役2年6月)の判決を言い渡した。5ルートで贈賄側と収賄側合わせて計15人が起訴された一連の事件で、判決が言い渡されるのは初めて。
青木被告は、紺色のスーツに赤のネクタイで判決言い渡しに臨み、裁判長から「判決の内容は分かりましたか」と問われると深々と一礼した。同社は判決言い渡し後、前会長と前副会長の青木宝久被告から会社に与えた損害に対する「解決金」として、組織委員会へのスポンサー料と同額の5億円が同社に支払われたことを明らかにした。
「日本選手団の公式制服製作の受注によりAOKIブランドの価値を高めようと考えた」。検察側は公判で前会長が贈賄工作に走った動機をこう指摘した。選手団の公式制服の製作は日本オリンピック委員会が発注して選定委員会が審査したが、前会長から依頼を受けた組織委元理事の高橋治之被告が選定委にAOKIHDを選ぶよう依頼していたことも公判で判明。2022年4月に東京地検特捜部の捜査を初めて受けた後に開かれた対策会議で、前会長は他の幹部に「危ないものがあるならシュレッダーしろ」と指示していた。
同社が設置した外部弁護士らによる「ガバナンス検証・改革委員会」は3月下旬、創業者である前会長の決定に異を唱えられない企業風土が事件の背景にあったとする検証結果をまとめ公表した。証拠隠滅の場面について「他の幹部は前会長をけん制すべき立場だったのに、法令順守よりもオーナーの意向を優先した」と批判。また、金銭を支払って元理事を頼ったことについて、調査で反省を述べる人がほとんどいなかったとし、企業倫理の意識が弱いと断じた。
「オーナーへのそんたく」からの脱却が再生の試金石となる。しかし同社は21日、現経営陣に月額報酬の一部の返上を求める処分を公表したが、前会長と前副会長は処分の対象外とした。同社は「処分の内容は解決金の支払いを考慮して決めた。コンプライアンス体制の強化に全社一丸で取り組む」とコメントした。【志村一也】