「遺族は泣き寝入りするしかないのか」
2015年2月、小学5年の息子である都史さん(当時11歳)を近隣住人に殺害された和歌山県紀の川市の森田悦雄さん(75)は訴える。事件後、民事裁判で加害者を訴え、18年に約4400万円の賠償が確定した。しかし、加害者からは1円も支払われていない。葬儀や裁判費用で出費は数百万円に膨らみ、今も切り詰めた生活を続ける。
賠償金の請求権は判決確定から10年で時効となり、再提訴しなければ消滅する。森田さんは「気持ちの整理をつけるには賠償金しかない。ただ、再提訴の費用が積み重なれば私は破産する」と苦しい胸中を打ち明ける。
未解決事件の遺族にとっても、賠償金は重要だ。
1998年1月に群馬県の旧群馬町(現高崎市)で両親(いずれも当時48歳)と祖母(同85歳)を殺害された女性(46)は18年7月、殺人容疑で指名手配中の小暮洋史容疑者(53)を相手取り、約1億370万円の損害賠償請求訴訟を起こした。逃走を続ける容疑者に「遺族は事件を忘れていない」という強い思いを示す狙いもあった。
翌年、請求通りの判決が確定したが、所在不明の容疑者から賠償金が支払われる可能性は極めて低い。「殺された人の無念や、遺族のやりきれなさは、誰が救ってくれるのでしょうか」
賠償金の回収率低く
22年3月、犯罪被害者の権利保護に取り組む「全国犯罪被害者の会」(あすの会)が4年ぶりに再結成された。代表幹事は解散前と同じく、妻を殺人事件で失った岡村勲弁護士(93)が務める。再結成の最大の目的は、加害者が支払うべき賠償金を国が立て替え、確実に被害者らに渡るようにする制度の実現だ。
日本弁護士連合会が18年に行ったアンケート調査(回答数494件)によると、民事裁判などで認められた賠償金の総額に対する回収率は、殺人事件は13・3%、強盗殺人は1・2%にとどまっている。
しかし、あすの会の活動再開により風向きも変わりつつある。
再結成以降、あすの会は多くのメディアを通して犯罪被害者に対する経済補償の不備を発信してきた。政治の場にも働きかけ、昨年4月には自民党議員有志が議連を発足。党内にプロジェクトチームを立ち上げ、経済補償制度の確立に向けた議論を進めている。
日本弁護士連合会も今年3月、国による賠償金の立て替えや被害者への補償金支給などを盛り込んだ法制度の創設を求める意見書を首相や衆参両院議長らに提出した。
あすの会は00年の創設以降、刑事裁判の被害者参加制度の実現や、殺人罪の時効撤廃に貢献してきた。被害者遺族の一人として被害者の権利保護に取り組む岡村さんは「経済的な苦しみは国が救ってほしい」と強調する。【鈴木拓也、木原真希、岩崎歩】
「逃げ得を許さない」犯罪抑止に
一般社団法人「犯罪被害補償を求める会」副理事の奥村昌裕弁護士の話
国が賠償金を立て替えることになれば「逃げ得を許さない」という姿勢を示すことができ、犯罪抑止にもつながる。国は犯罪被害者支援に特化した省庁を作り、弁護士など法律の専門家を集めて、加害者側から賠償金を回収する仕組みを作るべきだ。
諸沢英道・常磐大元学長(被害者学)の話
遺族が自ら加害者に賠償を求める現行制度は、遺族の負担や苦しみを増やしている。国が責任を持って加害者の資産や支払い能力をチェックし、確実に賠償させる制度を作る必要がある。