外国人を装い、恋愛感情を抱かせて金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」。大阪府警はガーナを拠点とする詐欺グループのメンバー17人を詐欺容疑などで逮捕、書類送検し、今年3月、リーダーでガーナ国籍のナナ・コフィ・ボアテイン容疑者(33)を国際手配した。グループは日本国内の男女69人から総額約4億9千万円を詐取したとみられる。被害者の1人が産経新聞の取材に応じ「今でも自分を責め続けている」と悲痛な思いを語った。
「僕と結婚しよう」
4年前。英会話の勉強をしようとマッチングアプリを始めた東京都の50代の女性のもとに「ジェフ・マーティン」と名乗る米国人男性から「君と話がしたい」とメッセージが届いた。
ジェフは自身を「神奈川県座間市の米軍基地で医師として勤務している」と説明。英語でのやり取りが始まり、仕事の話や週末の過ごし方など連日電話で話すようになった。
「毎日一緒にいたら、楽しいだろうな」「僕と結婚しよう」。そのうち、ジェフから熱烈なアプローチがあり、女性も好意を抱くように。しかし1カ月がたったころ、宝石を送る保険料名目などで金を要求されるようになった。
女性が男性のインターネットバンキングの口座にアクセスできないと伝えると、「何しているんだ」と激高。「お前のせいだ」「いいから払え」と午前2時や3時にも取り立ての電話がかかってくるようになり、冷静な判断を失った。
被害に気がついたのは約2カ月後。銀行に送金の相談をした際に、「詐欺ではないか」と言われたことがきっかけだった。総額で約500万円をだまし取られていた。
府警はこれまでに、このグループの日本人メンバーの取りまとめ役とされる森川光被告(59)=詐欺罪などで公判中=を逮捕し、全容解明を進めている。捜査関係者によると、被害者の中には大量のメッセージをやり取りし、約1億円をだまし取られた人もいるという。
当時は子供が巣立ち、1人暮らしだったという女性。事件後は家族に対する罪悪感にさいなまれたほか、人間不信にも陥った。「まさか自分が詐欺に遭っているとは思わず、早くこの生活を終わらせたい一心でお金を払ってしまった。私は1人で抱え込んでしまったが、勇気を出して周りに相談すればよかった」と話した。
深追いせずに…
国民生活センターによると、外国人を名乗る相手から投資名目で現金をだまし取られる「国際ロマンス投資詐欺」の相談は、平成30年度は2件だったが、コロナ禍を背景に令和3年度には192件と急増した。
被害が増加する中、アプリの運営企業も被害を未然に防ぐため入会時の本人確認や不正を監視する機能を強化。4年度の相談件数は86件と若干減ったものの、依然として被害はなくならない。
国際ロマンス詐欺の被害者支援に取り組むNPO法人「CHARMS」代表理事の新川てるえさん(58)は「犯罪グループはやり取りを始めた当初は甘い言葉をかけてくるが、ターゲットからの好意を感じるようになると次第に本性を現す」と話す。
金銭を要求する理由はさまざまで、出張先での銀行口座の凍結や身内のけがなどが突然起こり、生活に苦しむ外国人を演出。恋愛感情を抱いている被害者は「自分が助けるために何とかしなければ」という「マインドコントロール」のような状況に陥ってしまい、大金を支払ってしまう。
新川さんによると、詐欺師たちは被害者を助けるふりをして別の詐欺を企てることも多いといい、「大前提として見知らぬ外国人と連絡を取らないことが大切だが、やり取りの中で金銭を要求されたら、相手を深追いせずに、周囲や警察にすぐに相談してほしい」と呼びかけている。(宇山友明)