主要7カ国首脳会議(G7サミット)でメイン会場になったグランドプリンスホテル広島(広島市南区)。核軍縮・不拡散に向けた「広島宣言」が採択された7年前のG7外相会合の舞台になったほか、米アカデミー賞を受賞したあの邦画のロケ地としても注目を浴びた。
歴代首相の「定宿」
JR広島駅から南に約6キロ離れ、広島湾に浮かぶ宇品(うじな)島。約1500人の住民しかいない小島の南端で、三角柱の個性的な形をしたグランドプリンスホテル広島の存在感は際立っている。
穏やかな瀬戸内海の多島美が望めるホテルは地上23階建てで、リゾート機能とコンベンション機能を併せ持つ宿泊施設として1994年に開業した。広島原爆の日の平和記念式典に出席した歴代の首相が、前日から滞在する「定宿」になってきた。
市街地と島を結ぶ陸路は1本の道路橋のみで、ある警察関係者は「島を封鎖することで不審者の接近を防ぐことができる。警備の観点からも今回の会場は好立地だ」と明かす。
グランドプリンスホテル広島が、政治・外交の舞台として一躍脚光を浴びたのは2016年4月。伊勢志摩サミットに先立って開催されたG7外相会合の会場になった。会合の成果文書として発表された「広島宣言」の採択を主導したのが、安倍政権で当時外相だった岸田文雄首相だった。地元選出の首相にとっては、思い入れの強い施設の一つとみられる。
過去には、ダライ・ラマ14世や元南アフリカ大統領のデクラーク氏らが出席した「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」が開催されたこともある。
ホテル関係者が快挙に歓喜したのは1年前だ。村上春樹さんの短編小説が映画化された「ドライブ・マイ・カー」が米映画界最高の栄誉であるアカデミー賞で、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)を受賞した。
作品は、演出家の男性が妻の死と向き合いながら生きていく姿を描いた物語。俳優の西島秀俊さんが演出家を演じ、ホテル最上階のスカイラウンジ「トップ オブ ヒロシマ」がロケ地として使われた。
宇品島、いまは憩いの場
そもそも、ホテルが建てられた宇品島にはどのような歴史的な経緯があるのか。島と対岸の広島港を含む一帯は「宇品地区」と呼ばれ、旧日本軍の要衝として発展した。
日清戦争(1894~95年)以降、宇品は兵隊や軍需品を朝鮮半島や中国大陸に送る「玄関口」として栄え、港は宇品港と呼ばれていた。島内の要塞(ようさい)化も進んだ。
太平洋戦争の際には地上から飛行機を狙う高射砲の陣地が島内に築かれ、今も砲台の跡が残る。島南端の宇品灯台は旧陸軍の信号塔だった歴史を持つ。
終戦から78年の月日を経て、宇品島はいま、広島市民の憩いの場としても親しまれている。緑豊かな島西側は瀬戸内海国立公園に指定され、普段は遊歩道を通って島内の散策が楽しめるという。【宇城昇、井手千夏】