「あれだけ凄惨な最期迎えたのに」カラオケパブ経営者殺害事件…あすから男の控訴審始まる 1審は常連客に『懲役20年』未だに遺族への謝罪なし

おととし、カラオケパブ経営の25歳女性が刃物で突き刺されるなどして殺害された事件で、1審で懲役20年の判決を受けた常連客だった男の控訴審が22日から始まります。これまでの裁判を振り返るとともに、判決への悔しさを示した遺族の思いについて触れていきます。

おととし6月、大阪市北区でカラオケパブ「ごまちゃん」を経営していた稲田真優子さん(当時25)が首や胸などを刃物で何度も突き刺され殺害されました。この事件で殺人の罪に問われたのが常連客だった宮本浩志被告(57)です。
被害者と宮本被告とでは次のようなLINEでのやり取りが残されていました。
【稲田真優子さんと宮本浩志被告のLINEでのやりとりの内容】 (真優子さん)「いっぱい掛かってきて怖いんですが、何が聞きたいんですか?」 (宮本被告)「電話出て(不在着信)」 (宮本被告)「出るまでかけるよ」
LINEのやり取りからは執拗に被害者につきまとっていたことがうかがい知ることができました。
1審初公判で「死刑を下してほしい」意図は何だったのか

初公判から判決まで行われた8回の裁判。宮本被告は初公判が行われた去年9月、自らの主張を次のように展開しました。
(宮本浩志被告)「被害者家族の意図を汲むなら、ぜひとも死刑を下していただきたい。私についてはいかなる質問についても答える気はありません。しゃべりたいときは、しゃべることができるときに自ら手を挙げて意思表示します。以上です」
「死刑を下してほしい」「しゃべるときは手を挙げます」と一方的な主張を述べるも、事件については黙秘。法廷にいた遺族は驚いたような様子でした。
メモ見ず話した50分の“大演説”
その後の裁判で、裁判長から「何か言いたいことは?」と聞かれると、宮本被告は堰を切ったように50分間にわたる持論を展開しました。
(宮本被告)「まず、LINEの件、ほぼ毎日送っていました。友達の結婚話を楽しそうにしていた時に、『付き合っている人はいるの?』と聞くと『いない』と言っていた」「誕生日の時にプレゼントをもらった。彼女は一生懸命選んだと言っていた。もらったのは2年以上のワインで、飲みやすいワインでした」
そして、事件については、上着についた血痕に「信用性がない」として検察を批判。
(宮本被告)「上着のポケットの血はなぜあそこだけしかついていないのか。私の指のどこについていたか分からないのに証拠として意味があるのか。他に血のついた証拠が出てきたら信用性がなくなる。見つけられなかった捜査機関の不手際を隠すために『証拠隠滅』という言葉を使っているのではと第三者的に見ていました」
淡々とよどみなくメモを見ずに話していた宮本被告。発言に反省や償いととれるものはなかった。『第三者的』という言葉を使って、事件の当事者ではないように話し、事件には向き合っていないように感じました。
検察側は「被害者への好意が受け入れられず思いをうっ積させた末の犯行だ」として無期懲役を求刑していました。一方で弁護側は「検察は被告が犯人であることが間違いないと立証できていない」と無罪を求めました。
1審は懲役20年「被害者への強い執着心が動機…反省見出せない」

そして去年10月20日に行われた判決の言い渡しでは、宮本被告はこれまでのTシャツ姿とは違い、襟がついた白色のポロシャツに黒ズボンで姿を現し、裁判官、検察側に一礼をした。そして裁判長は判決理由について次のように述べました。
(裁判長)「被害者への好意や強い執着心がみてとれ、それが受け入れられなかったことが動機と考えられる。被告の靴やジャケットから血痕が発見され、DNA鑑定によって被害者のものと特定された。犯行以外の機会に付着したとは考えられない。身勝手で無慈悲。相当計画的な犯行で強い非難に値する。被告人の供述からは反省を見出すことはできない」
犯罪行為について強く非難する一方で、他の事案との公平性や前科がないことなどを考慮し、懲役20年を言い渡しました。
遺族「凄惨で苦悶の表情で最期を迎えたのに…」なぜ20年?

1審の判決後、真優子さんの兄・雄介さん(30)は目に涙を浮かべながら複雑な心境を話しました。
(真優子さんの兄・稲田雄介さん 去年10月)「これから先、邁進していって、父親とか母親とかに幸せな姿を見せていくはずだった。裁判でも蔑ろにされ、あれだけ強く襲いかかって、凄惨で苦悶の表情で最期を迎えたのに、なんで20年だったんだろう。(真優子は)すごく大切で、私にとって生きがいで、本当にいい子だったんです。来世があるのなら、兄でも弟でもいいし、また会いたい」
初公判から「死刑」を望む一方、検察批判も繰り返すなど特異な言動を続けた宮本被告。裁判を通じて一貫して感じたのは、事件への自らの関与などには一切触れず『他人事』として向き合っていたこと。そして、その言動に潜む『不可解な心情』は最後まで読み取ることができませんでした。
そして、何より遺族が求めていた謝罪や反省の言葉を最後まで口にすることはありませんでした。懲役20年という判決を不服して控訴した宮本被告、22日から始まる控訴審でどのような主張を展開するのでしょうか。