今年2月末、オーストラリアのメルボルンに近いアバロン空港で、同国空軍が開発中の最新無人航空機「MQ―28(ゴーストバット)」が初公開された。
この機体の制御は、機内のコンピューターに搭載されたAI(人工知能)が行う。従来の無人機と異なり、有人戦闘機の「僚機」として連携し、「索敵」や「戦闘」「攻撃任務」を担うことを目的とする。
本場米国でも、DARPA(国防高等研究所)などが中心となって、AIを搭載した新たな無人機の開発が進む。昨年末には改造したF―16戦闘機にAI制御下での空戦を前提とした試験飛行に成功した。3年前には地上シミュレーターで同じAIが、ベテランの戦闘機パイロット相手に空戦で勝利を収めていた。
軍事技術は日進月歩であり、遠くない将来に戦闘機は「無人vs無人」となる可能性もある。このままでは、無人機に対する日本の軍事テクノロジーも世界から取り残される
わが国でも2001年から10年間、偵察用として「多用途小型無人機(TACOM)」4機が、防衛装備庁と富士重によって開発された。
だが、10年7月に東京都・硫黄島での実験中にF―15戦闘機から切り離された同機は行方不明となるなど困難に見舞われた。翌年、研究はストップした。
技術開発に失敗はつきものだ。そのまま無人機技術を引き継いで開発していれば、米国やトルコ、イスラエルなどに頼ることなく、国産化に成功していたかもしれない。
現状では、無人機開発で先行する中国が大量に運用して、日本の南西諸島方面に繰り返し侵入しようとしている。わが国はこれに防戦一方といえる。いくら有人の戦闘機で対応しようとしても限界がある。そのうち、中国の無人機もAIを搭載するのは間違いない。
無人兵器と言えば、ミサイルも忘れてはならない。
大型から小型まで日進月歩で開発が進み、現代の戦闘では不可欠な要素となっている。北朝鮮は国力のほぼすべてを、この兵器の開発に賭けていることは言うまでもないだろう。
ウクライナでは、ロシアの極超音速ミサイル「キンジャール」を、米国から供与された迎撃ミサイル「パトリオット」が撃墜している。この「矛と盾」の開発競争は終わることがないだろう。わが国にもこの迎撃ミサイルは配備されているが、現在、最新型に更新中だ。
日本は周辺諸国に対し、基本的な国防戦略として「ハリネズミ」のようにして、防衛力のさらなる強化に邁進(まいしん)するしかないだろう。
例を挙げれば、小国にもかかわらず不安定な中東で幾度の戦いを生き延びているイスラエルのようにだ。パレスチナに対しては過剰防衛とも言えるものの四方を敵に囲まれながらも、しぶとく国家として存立し続けている姿勢は見習うべきものがある。
現代の戦いにおいて、テクノロジーの技術開発をやめてしまえば、結果的に他国に攻め込まれる。最先端の無人機開発とミサイル技術は、その要素が特に顕著に出る兵器分野だ。国防として、先端分野の研究・開発こそが、戦争に巻き込まれない唯一の方法とも言えるのではないだろうか。 =おわり
■世良光弘(せら・みつひろ) 軍事ジャーナリスト。1959年、福岡県生まれ。中央大学卒。時事通信社を退社後、出版社勤務。週刊誌や月刊誌に携わり、主に紛争地からのルポを発表。フィリピン革命からはじまり天安門事件やドイツ統一や湾岸戦争、複数回にわたり平壌や中朝国境地帯などを取材した。99年からはフリーとなり、軍事や防衛問題中心にテレビやラジオにも出演。著書・共著に『坂井三郎の零戦操縦』(並木書房)、『世界のPKO部隊』(アリアドネ出版)、『紫電改』(学研)など多数。