これまで20人近く首相を取材してきたが、「息子に支持率を下げられて解散できなくなった首相」というのは見たことがない。
岸田文雄首相は29日、長男の翔太郎政務秘書官を辞職させると発表した。週刊文春によると、翔太郎氏は昨年暮れに首相公邸で親族らと忘年会を開いた際に、かつて内閣発足時の記念撮影にも使われた「西階段」で記念撮影するなど不適切な行動を取った。
岸田首相は当初、「厳重注意」で逃げ切れると思っていたようだが、「世論」は許してくれなかった。
先週末の27、28日に行われた世論調査は、FNN・産経新聞と共同通信の内閣支持率がいずれも「前月に比べ横ばい」。朝日新聞は8ポイント上がったが、日経新聞は5ポイントも下がった。
結果が割れたときは、判断を決めかねている有権者が多いということだ。ただ、1週間前の調査では、読売新聞、毎日新聞ともに支持率が9ポイント上がっていたので、その時に比べて「岸田人気」にブレーキがかかったのは明らかだ。
パパとママが誠実そうに見える人たちなので、余計に世論は「やんちゃな息子」を許さなかったということか。
この「息子問題」に、連立相手の公明党とのゴタゴタも加わって、サミットの成功でビュービューと吹き荒れた「解散風」は、わずか1週間でいったんやんだようだ。「会期末(6月21日)解散。7月23日投開票」と言われていたが、解散は秋に先送りかもしれない。
ただ、油断は禁物だ。
岸田首相の「日程感」は独特で、一昨年の自民党総裁選で勝った後の解散総選挙は大方の予想より半月前に挙行したし、昨年の内閣改造も予想の1カ月前に行った。優柔不断なイメージがあるが、意外にパパッとやってしまうところがある。
だから、国民民主党の玉木雄一郎代表は「(翔太郎氏の)更迭は衆院解散に向けた環境整備の一環」「こちらとしては抜かりなく準備を加速する」と述べて、「不意打ち解散」への警戒を隠していない。
「息子」より厄介なのが、実は公明党と自民党のゴタゴタだ。公明党は「東京の選挙協力はやめるが、他ではこれまで通りやるので連立は続ける」と説明するが、当事者同士で「信頼は地に落ちた」など激しい言葉が飛び交っている。仲直りしない限り、今後は一緒にやれないだろう。
公明党との連立を解消すれば、参院では過半数を切ってしまうので、国民民主党、場合によっては日本維新の会との連携の可能性も浮上し、政界再編にもつながる。
岸田首相は今後、解散総選挙のタイミングについて情勢調査などを見ながら決めることになる。公明党とのゴタゴタの処理も含めて「地合い」がいいとは言えず、すぐに解散には突っ込めないのではないか。 (フジテレビ上席解説委員 平井文夫)